儚き月夜の夢をみて
□四章
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鈍い打音が耳に届いて、クルーヤのまぶたがぴくりと動く。
倦怠感に抗いながら、ゆっくりと目を開け――驚愕で一瞬息を止めた。
そこは狭い小屋の中のようだった。満月の明かりが薄く差し込んではいるが、小屋の隅までを照らしてはいない。
クルーヤの目の前には、一人の青年と、一人の男がいた。
青年は床に横たわり、後ろ手に縛りあげられている。身にまとっている服は泥で汚れ、体のあちこちに傷が見られた。
かろうじて届く月明かりに照らされた、苦痛にゆがむ顔に、疲労の色が濃く浮かんでいる。
もう一人の、立っている男は、うめく青年の腹を、思いきり蹴りあげた。
「がはっ……!!」
続いて何度も、容赦なく、男は青年の腹につま先をめり込ませる。
突然の異様な光景に、クルーヤは唖然とするほかなかった。
そして、自分が突然ここに現れたというのに、驚くべきことに、二人にはクルーヤの姿が見えていないようなのだ。
そしてもうひとつ、気になることがあった。
(二人とも――髪が、赤い)
その見た目からすぐに、〈アンプロセア〉の血族なのだと知る。つまりスペルステスの、同族なのだ。
なぜここに、二人も〈アンプロセア〉がいるのだろう。彼らは、そのほとんどが滅び去ったはずなのに。
それになぜ、片方が片方に、見ていられないほどの暴力を振るっているのか。
視線をうつしたクルーヤは、ふと、男に既見感をおぼえた。
(こいつ……まさか、スペルステスを追っかけてきた人間の集団に、混じってた奴じゃないか?)
別人だとは思えなかった。長時間彼を眺めていたわけではないから、確実に覚えているわけではないのだが、クルーヤは確信を持った。
(まさか、スペルステス以外に、生き残りがいたのか……?)
横たわる青年に、視線を戻す。
「強情だな、ユーグレラ」
吐き捨てるような、男の声が耳に届く。
青年は、激しい痛みに苛まれながらも、何とか男を見返した。
諦めたような、憐れむような、まなざしだった。
「何度僕を痛めつけても、無駄ですよ、叔父上。石の在り処は、あなたに言うわけにはいかない」
その二人のやりとりに、クルーヤの記憶が刺激される。