ゆめとまぼろしの物語
□吸血鬼と少女
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「どうしてあのとき、私を連れて行ってはくれなかったの……?」
激情をかろうじて押し殺したような声が、耳に届く。彼はそちらのほうを見やったが、既に視界はぼやけはじめ、相手の表情を見ることはかなわなかった。
それでも、銀の弾丸で作られた二の腕の銃創を押さえながら、彼女の方へ体を向ける。
ぼんやりと、色をもった人の輪郭は見えるのに、肝心の表情がわからないとは。
久しぶりに、本当に久しぶりに、会えたのに。
「成長、したな……」
過ぎ去った時の流れを思って、人と自分とでは時間の意味が違うのだということをあらためて思い知って、感嘆をもらす。
びくっと、彼女が体を震わせた気がした。
「僕を、殺しにきたんだろう? どうしてすぐ、とどめをささない?」
記憶にあるよりも、大きくなった彼女。
きっと、美しく成長したことだろう。自分のそばにいた時から、におい立つような容姿をしていたのだから。
「……私の問いに、答えて」
彼女は彼のもとへ歩み寄る。銃を向けたままで、低い声で、なじるように問う。
「どうして私を連れて行ってはくれなかったの?」
壁にもたれかかり、床へくずおれた彼は、ゆっくりと頭上を振り仰いだ。
さっきよりも、相手の表情が見える気がする。その瞳を覗き込みながら、言葉を紡ぐ。
「……君は、僕と一緒に行きたかったっていうのかい?」
永遠の、暗闇の中を?
「そうよ……私は、あなたと一緒に行きたかった」
小さな嗚咽が響く。彼女の口から洩れたものらしかった。