いまとときめきの物語

□夏のレモンは恋の味
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(うわあ、すごい勢いで中身が減っていってる……)


春華(はるか)が呆然とする傍らで、秋臣(あきおみ)は二リットルのペットボトルに入っている清涼飲料水を一気に半分以上飲み下した。


「ぷっはあーっ! あー、やっと一息ついた。って、あれ、なんだよもう半分以下になってるじゃんか。案外少ねえなあ」


あれだけ勢いよく嚥下しておいてまだ足りないんだ、と春華は心の中で突っ込みを入れる。

陸上部の朝練を終えたクラスメイトに渡した差し入れは、早くもなくなりかけていた。
ちょっと物足りなさそうな顔をしながらキャップを閉める秋臣に、春華が言う。


「秋臣君、もうちょっと味わって飲めばいいのに。そんなに急いで飲んだら、味が分からなくてもったいないと思わない?」


「え、いや、渇きが癒えればいいし、いちいちそんなの気にしてねえよ」


あっさりとそう返され、なぜか春華は不満を感じた。


(……私、そのジュースの味、好きなんだけどなあ)


「へえ、これ、夏季限定商品なんだ」


タオルで汗を拭きつつ、ようやくラベルに目を落とした秋臣が、特に驚いたふうもなく言った。開け放たれた教室の窓からは、前日の夜と同じぬるい風と、虫たちの泣き声が入り込んでくる。

今日の昼も暑くなるだろうな――窓際の席だと、日光が体中に刺ってくるみたいで嫌なんだよなあ、と思いながら、春華は風で乱れた髪をあわてて整えた。


「レモン味、夏季限定……まあ、甘ったるいけど酸っぱいのは、嫌いじゃないな。差し入れ、ありがと。今度何か、お礼でもするよ」


あわてて見た目を整える春華の動揺に気がつかず、秋臣は笑顔であっけらかんと言った。

その優しげな笑顔と言葉に、春華は反応が遅れて一時停止する。


「えっ……」

 
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