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□abduct from the past
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しばらく歩いていて気付いた。


(…誰かに見られてる?)


足音もなければ、気配を感じるわけでもない。だが、何となくそんな感じがする。何も感じないはずなのに心臓がバクバクと不自然に脈打つのを感じた。

ポケットのなかの携帯がなる。雲雀からの着信だ。会うまで電話を繋いでてもらおうかな…。
そんなことを思いながら通話ボタンを押した。


「…もしもし?ヒバリさん?」

『綱吉?うん、僕だけどごめん今日は先に行っててもらっていいかな?』

「あ、はい…お仕事ですか?」

『まぁ…ちょっと咬みごたえのある群れを見つけちゃって…ね。』

「ふふっ…ヒバリさんらしいです、ね」


少しばかり気まずい様子で答える彼に思わず笑ってしまった。不良などのせいで朝一緒に行けないのは淋しいけど、現金なことに声を少し聞いただけでさっきよりずっと安心しているのを感じた。


『…綱吉、何かあった?』


それでも雲雀はツナの様子に異変を感じたようだった。先ほどと違い、神妙な声色でツナに問う。


「…え?ど、して…?」

『気のせいじゃないよね。今、君の声が震えてるの。…泣いているの?』

「…な!泣いてるわけじゃないんですけど…怖いんです」

『怖い?一人で学校に行くのが?』


可愛いねと彼は笑うが、正直ツナにとっては笑い事で済ませられることではなかった。


「ちが、います…さっきから後ろ…何も感じないはずなのに…嫌な感じがずっとして止まらない…どんどん大きくなってるんです…」

『…綱吉?』


一度言葉を出した瞬間、止まらなくなった。先に言って手と言われたばかりなのに、今頼ってはいけないと分かっているのに、意識に反して救いを求める言葉を紡ぐ。


「怖い、何もいないはずなのに超直感だけがずっと警告してくる。ここにいたくない。でもこれ以上進むのもこわ『落ち着いて』


凜とした、おちちいた低音が鼓膜を刺激した。ただ宥めたわけじゃない。そう理解した。彼は自分の状態を知った上で言ってくれているのだと。


『ゆっくり息を吐いて、

「は、はい…」

それから吸うんだ。単純だけど取り乱した時そうすれば…落ち着くでしょ?』

「う、ん…」


心が凪いだ海のように穏やかになるのを感じた。それは深呼吸のせいなどではない。大好きな雲雀の声だったからだ。


『良いかい?僕は不良を咬み殺したらすぐ君のもとへ行く』

「うん。」

『君は僕のことだけを考えてゆっくり歩いて。ゆっくり、落ち着いて歩けばいつもの交差点で会えるから。』

「…はいっ」

『綱吉…好きだよ。何が今君に迫っているのかその場にいない僕には分からないけど、君は僕が守るから。』


じゃあ、またね。
穏やかな声と一緒に電話が切れた。先程の会話を頭の仲でリピートするだけで思わず頬がゆるむ。ホントにオレって単純だ、とツナは苦笑した。


(とりあえず会えたらまずお騒がせしてごめんなさいって謝って、それとぎゅうって抱き締めてくださいってお願いしよう。)


そしたらきっと今日の残りは安心できる気がするから。




「…って、着くの早っ!」


気が付いたら交差点。向かいの道路では既に雲雀が待っていた。早く会いたい、抱きしめて欲しい。何かはわからないが付きまとう怖い何かを振り払ってほしい。
逸る気持ちを押さえて、ヒバリに向かって走りだそうと足を踏み出すと、



「動くな」



「?!」


誰かの腕が口を塞ぎ、驚いてカバンを落とした手に冷たい指が絡まる。ヒバリ以外に触られるのが嫌で、開いた手で振り払おうと暴れるが右手に絡む指に不自然に力が入り、その痛みに動きを止めた。


「あいつより小さいし、ぱっとしない気もするけど…お前、この時代のボンゴレ?」

「んっ!んんー!」

「…ねぇ。動くなって言ってるのがわからない?」


暴れるツナにため息を吐いた男は指を一本取り、まるで木の枝を折るかのように不自然な方向に力を入れた。


「んうっ!」

「次動いたら一本ずつ指の骨、折るから。」

「!」


淡々と何事でもないようにそう告げられツナは恐怖に動けなくなる。


「…いい子。もう一回聞いてあげるから今度はすぐに答えな。

お前は、この時代の、ボンゴレか?」


(…この人何…?!ヒバリさん、ヒバリさん…!!)


訳の分からない事態に頭は混乱していたが、軋む指の骨に恐怖と戦いながらなんとか頷いた。


「当たり。それなら最初から答えなよ。ま、捕まえたから良いけど。悪いけど、ちょっとおれについてきてね。」


腕が離れてすぐ何かに濡れた布を当てられてツナの意識はそこで途切れた。


(ごめんなさい、ヒバリさん。折角心配してくれたのにまた迷惑かけそうです。)
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