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□人形使いの恋
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ガラクタと呼ばれていた天使の子供は残った心を使いその意志で一人の少年の人形となった。
たった一人の主人のために笑い、そして踊る愛しい人形。
いつからその事実だけでは満足出来なくなったのだろうか。
足りない、その事実とそれに隠された己の心に気付いたときにはもう子供は心を忘れ人形である自分に慣れてしまっていた。
ガラクタ天使-人形使いの恋-
「こんにちは、ヒバリさん」
「やあ、綱吉。待っていたよ。」
放課後になり控えめなノックと共に茶色のひよこ頭の子供があらわれた。
半開きの扉からひょっこり顔をのぞかせる様に少し笑い、ヒバリは子供、綱吉に部屋に入るよう促した。
「今日はお手伝いすることはありますか?」
「ううん、コレは目を通せば良いだけのものだから。少し座って待ってて?お茶入れてきてあげるから」
「はい、あの、それだったら宿題してても良いですか?今日ちょっと量が多くて…」
「構わないよ。分からないところがあるなら聞きな。できる範囲で教えてあげる。」
「ありがとうございますっ」
ぱぁ、と花が咲き誇ったかのように可愛らしく笑い、綱吉はいそいそとカバンの中から教科書とノートそして筆記用具を出していく。
ヒバリと綱吉の間に所有被所有の関係が結ばれて1週間が経った。
綱吉は以前と変わらずヒバリの使いっぱしりのようなこともするが、ヒバリの本意に反しない限りは基本的に自由で彼のそばも居心地が良かった。
ただし、
ヒバリの言葉には絶対的に従順でなければならないが。
「綱吉、」
「はい、ヒバリさん。」
一息付いたのか、唐突にヒバリに呼ばれ、こっちにおいでと手招きをされる。それに気付いた綱吉は一つうなずくと何も言われなくともヒバリに近付き、怖ず怖ずとしながらも彼の膝の上にちょこんと座る。
それを見てヒバリは満足したように笑うとそのくせっ毛の頭をゆっくりと撫で、そしてその手を頬に添え口付けた。何度かついばむようなキスをすると、綱吉は少しだけ口を開く。それを合図にヒバリは舌を差し入れ二人のキスはさらに深いものへと変わる。
端から見れば仲睦ましい恋人同士の戯れだが二人の間にその関係はない。
この一連の行為に心が欠如していても、綱吉はヒバリが望むかぎりそれを全て受け入れているのだ。
そこに自分の意志など、必要ない。
キスでさえ、ヒバリが初めてした日以来、気に入ったのかなんとなしに習慣化したものにすぎないのだ。
「…大丈夫?」
「は、い…」
それでも、慣れないキスに息を切らしながらも、綱吉は笑っていた。
そんな彼にヒバリも満足気に微笑んでいたが、いつからだろう心のなかでは得体の知れない虚しさがいつまでも消えずに残っていた。
そんな日が続いたある日のこと。
(…綱吉?)
昼寝をしようと屋上に上りなんとなしに外を見ていたらあるものが目についた。
授業の終わりなのかトンボ掛けをする綱吉。大方クラスの連中に押しつけられたのだろう。変わったことといえば彼の隣には同じようにトンボを持ってにこやかに話し掛ける男子がいた。
(…1‐Aの山本武…か。)
風紀委員長という立場上全校生徒の顔と名前を覚えているヒバリにはすぐ綱吉の隣の男の正体が分かった。
人と話すのに慣れていないはずの綱吉が控えめに微笑い話しに乗っている。
(珍しい…)
ぼんやりとそれを眺めているとみし、と嫌な音がした。手元を見てみるとフェンスの自分が握っていた部分がひしゃげていた。
(なんか…イライラする…)
昼寝をする気もそがれた雲雀は深くため息を吐き踵を返した。