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□ガラクタ天使
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小学校の頃誰かが言ってた。

おまえからいじめられっ子のオーラが出てるから悪いんだって。

そんなつもりはなかったのにな。最初はただみんなと髪の色と目の色が少し違うから仲間外れってレベルだったのにその頃には外見関係なく馬鹿でちびでとろいからっていじめられるようになった。
そこに大人や先生は何の役にも立たないことを割りと早い段階で知り、オレは早くからヒーロー番組を嫌悪するようになった気がする。どうせ助けなんか来ないんだって。

母さん達には最初から言わなかったし言えなかった。怪我させられた時に「ちくったらひどいからな!!」て言われてたから。
子供の頃はそっちのほうが恐いと感じていたから。

中学に上がったら皆少し大人になったらしい。小学校から同じ人も嫌な役を押しつける程度に落ち着いた。そのかわり先輩からのカツアゲによく合うようになったけど。

何を言われても断ることが出来なかったからオレは“ダメツナ”のレッテルと一緒に“何をしても怒らない、嫌がらない”、“何を押しつけても断れない”という感じのものも貼られていた。
それでもオレは何一つ言えなかった。もう意味がないと諦めてしまっているから。
きっと“断れない”って言ってるからには分かってるんだろうなぁ。オレが一度も快く引き受けたことがないことも、殴られているときに必死に搾りだした“嫌、やめて、痛い”を無視してきたってことも。


「おっダメツナじゃーん。ちょうど良いところに出てきたな。」

「オレ達さぁ今ちょーっと金が足りねぇの。5千円くらい貸してくんね?」

「言うよなぁ〜。どうせ返す気ねぇくせに!」


ぎゃははと笑ってオレを囲むのはお馴染みのカツアゲ先輩(名前なんて知らないし、興味も無い)。
初めての時、放課後にゲームを買おうとたまたまお金を入れていたのがそもそもの間違いだったんだ。
それ以降は財布すら持たないようにしるのに、ないならムシャクシャするから殴らせろと理不尽なことを言う。嫌だって言っても笑い声にかき消されたからもうそれ以降は何も言えなくなった。


「なぁツナちゃんちょーっと金貸してくんね?」

「…持っていません。小銭も、財布も。」

「そんなこと言わねえでカバン貸せよコラッ」

「っ!」


カバンをはぎ取られた挙げ句思い切り突き飛ばされた。どうせカバンのなかには空の弁当と筆箱くらいしかないけど、憂欝なのはこの後だ。カバンを探り終えたら金髪が必ずお決まりを口にするから。


「ちっシケてやがる。こいつマジでなんも持ってねえし。」

「マジお前って要領わりいよな。」

「1万円でも入れてりゃ毎度殴られずにすむのにな!」


そういって振り下ろされる拳。ごてごてと指輪や腕輪がついたそれはグー単品より遥かに痛い。顔や頭に怪我をすると母さんが心配するからそこは腕で出来るかぎりガードした。

そういえばオレのあだ名に発散人形ってのがあったっけ。

どうせなら本物の人形みたいに痛覚なんて壊れちゃえば良いのに。
体を丸めて目を閉じて。
3秒後には何か硬いものと肉がぶつかる音が響いた。

でも、5秒経っても痛みどころか衝撃も来ない。

もしかして本当に人形になっちゃった?なんて。


「…弱い群れは本当に愚かだ。巣穴に引き籠もってじっとしてれば余計な死を迎えなくて済むのに。」


「……へ?」


聞きなれない声がして思わず顔を上げるとカツアゲ先輩3人は消えていた。代わりに目の前にはブレザーが制服の学校の筈なのになぜか学ランを来た男の人が立っている。


「あ、…ひ、ば…り、…さ…」


雲雀恭弥。
情報にかなり疎いオレでもこの人は知っている。遠くからちらりと見たことしかなかったけどそれでも色々と目立っていたから。
気に食わない態度を取ったり、複数で行動してたらトンファーで殴られるって誰かが言ってた。
よく見たら先輩達が足元で転がっている。この人が全員倒してしまったのかな。
トンファーに付いた血を払って、その人はあっさりと踵を返し立ち去ろうとする。

…この場合ってお礼は言ったほうが良いよね…。それで殴られちゃったら悲しいけど。


「あのっ…ひ、ばりさんっ…」

「……何。」

「あ、あのっえと…そのっ…」


ていうかヒバリさんもしかしなくてもオレが絡まれてることは気付いてなかった…?明らか群れ…ていうのを倒しにきただけみたいだし…。どうしよう、普通に「助けてくれてありがとうございました」で良いのかな…。


「…何。そっちから呼び止めておいて何も言わないわけ?君も咬み殺そうか?」

「すっすす済みませんっ!えと、ありがとうございましたっ!!」

「…何が。」

「さっきヒバリさんが倒した人達、に、オレ、ついさっきまで絡まれてて、殴られるところだったんです。だから、助けてくれてありがとうございました。」

「…別に君なんて助けた覚えないし。ていうか、君…どこかで見た顔だね。」

「え、あの、オレ今日初めてあなたを近くで見たんですが…」

「…そう。」


顎に手を当てて何か考えているヒバリさん。もう行っても良いのかな。自分で引き止めておいて言うのも難だけど。


「…じゃあ、あの、オレこれで失礼しま…」

「発散人形。」

「…え、」

「…今思い出した。何をしても拒絶しない、何でも言うことを聞く人形。そんな感じに言われてるよね、君。」

「…は、い…」


初対面のこの人からもオレはそんなふうに見なされてるのか。今すぐ逃げ出したいけど、どうやら足が竦んだらしい。ぴくりとも動けずオレは次の言葉を待った。少し考える素振りを見せてヒバリさんは言った。


「ふぅん。じゃあ、君今日から僕の奴隷ね。期間は僕が飽きるまで。」

「え…」

「別に助けたつもりはなかったけど、君からしたらそれは僕への借りになるんだろ。なら断る理由はないんじゃないの。」

「そ、そんな…」

「分かったなら返事は。肯定以外は認めないけど。」

「っ…」


壁に押しつけるその手に、
首に押しつけ呼吸さえ奪う銀色に、
一切の否定を許さない夜色の瞳に、
少し歪んだ弧を描くその口元に、
オレは恐くなって、悲しくなって。全てを閉ざしてただ静かに頷いた。

ねぇ、神様。それが貴方の答えですか。

ボロ雑巾みたいに好き勝手使われて、ただ捨てられる。
それがオレの末路なのですか?
そうやって生きないといけませんか?


「…分かり、ました…。」


この言葉は誰に向けて言ったんだろう。考えることを投げ出した今となってはもう、分からない。
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