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□Bunnyばにぃ。
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Eどうやら迷子は迷子だと認めない傾向があるらしい。



「ふぁあっ!ツナ見て!すごいでっかい観覧車っ!」

「つー落ち着け。あんまり走り回ると転ぶぞっ」


小さな子供向けのゲームセンターにはメリーゴーランドや電車様々なアトラクションがある。テレビで観覧車は遊園地にしかないものと認識していたつーはこんなところでの初めてのご対面に目を輝かせ近づいていく。それを苦笑混じりに嗜める綱吉だが冷静に振る舞っている様で実は辺りに陳列されている雑貨に視線は忙しなくさまよっていた。
現在気になるものは可愛らしい芋虫の形をしたビーズの入ったクッションだ。

綱吉、つーは雲雀により隣町の大型ショッピングモールに連れてきてもらっている。最近オープンしたばかりらしくテレビで大々的に宣伝されていたのを見てつーが行きたいと言いだしたのだ。そう言えば二人を連れて遠出なんてしていなかったなと雲雀は思い立ち、つーだけでなく綱吉までも画面に注視しているのを見て仕方ない連れていってやるかと心を動かされたのだ。


「君も行きたいのかい?」


試しにそう聞いてみたら


「つーが心配だからな」


とぶっきら棒に返していたが明らかに嬉しいのオーラをだだもれにしていて思わず笑ってしまった。
その次の日には耳を隠すため大きく可愛らしいフード(狙ったのか兎の耳のように長いところが左右に一つずつある)のついたジャンバーを買い揃えて来たので人目も気にせず店内を見渡すことが出来るため二人は大はしゃぎだ。

もっとも当の雲雀は子供連れの親子が多いこの5階のフロアーに入った時点であまりの群れの多さに脱落し時計台の前で待ってるから2時間この階内を好きに回ってこいと言い渡し留守番中である。綱吉がつーの面倒を見てくれるだろう。


「ほぁあっ!ツナっお兄さんがお空飛んでる!」

「確かピーターパンって言うみたいだぞ?この前読んだ本にあっただろ?」

「うんっ妖精さんでお空飛ぶって!」


背後からがらがらと音がして振り向くと色とりどりのお菓子がワゴンに乗せられてくるところだった。どうやらオープンセールでお菓子の詰め放題を始めるらしい。
つーは直ぐ様ピーターパンから注意を逸らされワゴンの元へまっしぐらに駆け寄っていった。


「お菓子も良いけど、そろそろ何か買わないか?欲しいもの、あるんだろ?」

「うんっ。恭ちゃんにもねプレゼンと買うの!」

「そっか。あいつは可愛いものが好きだっていってたけど(大嘘)…どうすんだ?」

「じゃあオレたちとお揃いにしよっか!」

「だな。」


無邪気に笑うつーに対し綱吉のそれは明らかに悪意だだもれだった事は言うまでもない。






「…咬み殺したい。」


一方雲雀は時計台の前のベンチで今にも人を殺しそうな顔で悶々としながら座り込んでいた。5階のフロアーから迷わずすぐに来れる距離にある時計台は同時にべつ行動をとったカップルの待ち合わせ場所でもあった。


「ごめん待った?」「ううん今来たばっかりだよ。」

そんなやり取りをした後互いの指を絡めて歩いていく。見事に同じやり取りで雲雀はいい加減自分は今同じ映像を巻き戻してみているだけなのではないかと錯覚してしまう。

ちらりと時計を見る。綱吉が時間の経過を忘れていない限り彼らが姿を現すまでまだ優に一時間はある。今のうちに夕食の準備を買ってしまうかと雲雀は下りのエレベーターへと足を運んだ。



主婦が多い食品売場のほうがましだと思ったのはどの頭か。群れは群れに変わり無く、おまけにくると同時にワゴンセールが始まったらしく、無害な草食動物の群れはハイエナに一変し一方向に群がる。これはあまりにもシュールだと思う一方、今なら普通の売場は空いているのではないかと雲雀は籠を手に売場へと乗り込んだ。

ざっと見渡してみるとこの店は中々低価格でボリュームがあるものを提供しているのが分かる。最近綱吉もつーも成長期なのか食べる量が増えてきている。余れば冷凍庫に放り込んでしまえば良いかと適当に肉やらミンチをつかみ籠に入れていく。今日の夕食はハンバーグで良いか。昨日はオムライスだったから和風にしよう。

次に寄ったのはお菓子売場。生憎つーと綱吉の好みは把握していない。お菓子詰め合せで我慢してもらうことにする。


「…今何時だ」


若干憂鬱そうに呟くと返事の代わりに、


あーん!うわぁぁぁぁん!


大きな声がこだました。
騒つく売場に誰かの泣き声が響く。迷子か。この群れじゃ一人や二人いても不思議はないがやはりうるさい。早く迷子センターにでも連れていけば良いものを。


うわぁぁぁぁん!ツナぁぁぁぁ!


若しくはツナ缶でもねだっているのだろうか。それ位買ってやれば良いのに。と言うかなぜツナ缶。
あまりの人ごみに雲雀の頭は大分現実から逃避していた。

ぁぁぁああーん!きょうちゃぁぁああああん!ツナぁぁぁぁ!


…ちょっと待て。まさか『きょうちゃん』とは


「僕のことか!?」


聞き覚えのある名前に段々声もそう思えてきた。とにかく行くしかないなと雲雀は泣き声のする方向へと全力で駆けた。二、三人引いてしまったが、まぁ仕方ないだろう。





「なにしてんの。こんなところで」

「ふぇーん…ひくっぐしゅっ…」


泣き声のするところへたどり着いてみれば予想通り。どこかで買ってきたのかだらーんと長いカッパのぬいぐるみと仲良くおててを繋いだ(というか繋いで引きずっている)つーが大泣きしていた。雲雀は一度持っていた籠を足元に置き未だ泣き続けるつーを抱き上げた。


「うぇえええ…きょうちゃん…」

「いったい何たって君はこんなところに来てるのさ。綱吉はどうしたの。」

「うぇっ…ぐじゅっ…ツナとね、マフラー見てたらね、くまさんがね、チョコレートでね、周りがえんぴつやカレンダーでっ、あぁあん…」

「綱吉と離れちゃったんだね」


この際どうやれば5階から1階のここまで迷い込むのかはどうでもいい。
つーが迷ったという事は綱吉もそれに気付いた時点で迷子ということになる


「行くよ、つー。綱吉を迎えに行く。」


おとなしく時計台で待ってくれていることを願おう。






「…つー?」


二人で選んだマフラーを会計に出す途中、つーがトイレに行きたいと言った。
この人混みの中迷うのではないかと心配ではあったがどうやらトイレは目と鼻の先のようで。故に綱吉は油断したのだ。まさか迷うことはないだろうと。

だが15分経ってもつーは出てこない。トイレを覗いてみてももぬけの殻。


(…雲雀のところ…いかないと)


ばっくんばっくんと暴れる心臓をどうにか落ち着かせ、綱吉は走りだす。とりあえず時計台だ。そこに雲雀はいるはずだから。玩具コーナーを曲がって、ガラス張りのエレベーターを抜けて、エスカレーターを過ぎれば時計台だ。だが綱吉はエスカレーターを下っていく男の姿に目を見開く。

黒く短い髪に、黒いファーつきのフードのついた黒いジャケット。マフラーはしていない。
それは雲雀が家を出たときの姿だった。


(…待ち合わせ時間までまだある。あいつも買い物か?)


とにかく雲雀を捕まえないと。その思いだけで綱吉は小さな身体を人で溢れるエスカレーターにねじ込んだ。


「雲雀っ!おいっ」


圧死コースのエスカレーターをやり過ごし、すぐ目の前のエレベーターに乗り、何階だか知らないところで降りて、雲雀を追う。普通に走ってはすぐに見失うと綱吉は炎を使い巧みに天井にはりつきながら男の姿を追った。
何度も名前を呼び、相手も聞こえているはずなのに雲雀は振り向く様子もない。

…ぶっつん。綱吉の何かが音を立てて切れた。

ボォッ

額の炎が音を立てて大きくなる。つーが興奮したときに本人の意思関係なくやってしまう超加速も成長した綱吉ならある程度は加減できる。


(オレを無視したあいつが悪い。)


アクセルを踏むなら今しかない。
綱吉は前回骸に飛びげりを食らわせたときとほぼ同じ勢いで本を手にする雲雀へと突っ込んでいった。



背後から予告のない突進に雲雀が反応するとは当然思わなかった。



「なっ、…あっ」


だから、綱吉は自分が今置かれている状況を一瞬理解できなかった。雲雀に向かっていったはずの自分は今ボールプールのある風船ハウスに叩きつけられ、誰かに首元を押さえ付けられている理由など、

理解できなかったのだ。




「うぇー…ツナァ…」

「つー…いい加減泣き止みなよ。」


綱吉が地に伏せているちょうどその時、尋ね人二人が数十メートル先のエスカレーターを上っていった。



続く。
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