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□ディーズガイズその後の話。
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「…へぇ。似合ってるじゃない」
「…嬉しくないです…。」
件のヒバリの女装騒ぎの週の日曜日、ツナはヒバリからのお誘いで地元のゲームセンターに来ていた。
なぜかツナが女装をして。
「何でいきなり女装なんですかぁ…」
半べそになりながら精一杯の不平を唱える。頑なに拒否したところ、ヒバリにトイレに連行されて無理矢理変えさせられたのだから当然だろう。
スカートによる強すぎる足の開放感が落ち着かないのかか、短いスカートの丈を引っ張ってでも伸ばそうと必死だ。
「だってカップル以外で男子は入れないんでしょ?」
「はい?」
「あれ。」
人差し指の先には煌びやかに飾られた数人くらいは十分納まる大きな箱のようなもの。言うまでもなくプリクラ用のブースだ。
「え、あの、…どれですか?」
分かっていたけど聞き返した。聞き返せずにはいられなかった。
「ア・レ。」
一語区切りで繰り返し、指差す先はやはり先程と同じもので。自分の目に異常があるかもと何度もこすってみても変化はなくて。
「ヒバリさん……正気ですか?」
失礼を承知で、否定を切望して、そう尋ねた。
「君も大概失礼だね。大体君が悪いんだろ。僕を差し置いて他の奴らとやるから。」
「…他の奴?」
「赤ん坊、野球部、忠犬、茶髪の子供、幼児二人、笹川了平の妹、緑中の女子…」
「……あ。」
その組み合わせで揃ったことが数回あった。そして、うち1回はゲーセンで遊んでプリクラもとってた気がする…。
ただ一つ引っ掛かるのは何故ヒバリが知っているかだ。ヒバリと付き合うようになったのはあの日よりも後だからだ。それにプリクラも必要ないからとハルと京子に大半を引き取ってもらったはずだ。
「前に緑中の女子が応接室にきただろう?」
「えっあ、はい確かインタビューで…」
何故モノローグの答えがいきなりヒバリの口から出てきたのか分からないが取り敢えず気にしないことにした。そこを追求したら果てしない脱線をするのが眼に見えていたからだ。
「それでその子応接室に手帳忘れて帰っててね、小さな写真みたいなのがぎっしり貼ってて、君も写ってあったから返すついでに何か吐かせた。」
「なっハルにですか?!手荒な真似していませんよね?!」
「安心しなよ武器は出してない。」
「当たり前です。したら問答無用で絶交しますからね。て言うかオレあの時ハル達抜きで普通に獄寺君達と撮ったり、フウ太とツーショットやったりもしましたけど…」
「へぇ。そんなこともしたんだ。」
「だから男同士でも別に…ひぃぃっヒバリさん怖いです怖いです!」
今の発言は地雷だったのか。怒ったのだと一目で分かる恐ろしく不自然な笑顔にツナは漸くそれを理解した。
「し、仕方ないじゃないですかぁっ!!あの時はオレまだヒバリさんと付き合ってなかったしそうなる予定も無かったんですからぁ!!」
「傷つくなあ。僕はこの写真を撮った日付よりもずっと前から君のことが気になっていたのに。」
「んなぁっ!!」
「ふふ、顔真っ赤。」
「か、からかわないで下さいッ」
顔を真っ赤にして怒るツナと、そんなツナを見て楽しそうに笑っている(といっても口端が上がっている程度だが)ヒバリ。
ツナの格好もあってか端から見れば男女のカップルだ。最もうえにばの字を足さねばならないが。並盛の生徒がこの現場を目の当たりにすればさぞ驚くことだろう。
「だからっ…とにかく、撮っても良いですけどせめて普通の格好にさせてください。」
「やだ。良いじゃない。折角着たんだから。」
「うわっヤダ持ち上げないでスカート中見える!!」
「それに僕だって君のしがない名誉の為に鬘被ってスカートを履いて雌の前に出た。」
「しがないって言った…。まぁ、そうですけど。」
「だから君が僕の為にそれを着ても罰は当たらない。」
「それとこれは話が別ですっ!せめて回りに人がいないところにしてくださいよぉっ!」
「ちょっと。暴れないでよ。あんまり言うとあそこに展示されている服を着せるよ。」
「あそこ…!!」
振り向いた先を見てツナは石化した。
「…………この格好のままでお願いします」
これ以上は何も言えなかった。コスプレ衣裳貸し出し中と書かれた看板の横で並んでいるナース服、チャイナ服、巫女、夫人警察、そしてはては簡単な作りのウェディングドレス。それらと比べたら並中女子の制服のほうが遥かにまともに見えたのだ。