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□ディスガイズso cool
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「今日から君は僕のね、沢田綱吉」
「…………はい?」
とある日の放課後、京子ちゃんに絶賛片思い中だったオレこと沢田綱吉は、何の前触れもなく雲雀さんのものになりました。
ディスガイズ so cool
「2年A組沢田綱吉、3分以内に応接室に来るように。遅れたらか――」
「それじゃあまた後でね!獄寺君山本!!」
「じっ十代目ぇぇええ〜」
「おー。また後でなー!」
昼休み開始からきっかり5分後に鳴り響く校内放送の呼び出しのメロディーと、恐怖のあの方からのお呼びだし。
咬み殺すのかの字を合図に陸上選手よろしく猛ダッシュで教室を跳び出した。もちろん、お弁当を片手にね。
これは最後まで聞いてからじゃ間に合わないと3日前から実行したオレなりに考えた手段だ。1週間も続けば周りもそれなりに慣れたようで、山本は手を振って見送るようになり、最初こそダイナマイト両手に全力で止めてきた獄寺君も啜り泣く程度に落ち着いた。
ちなみにあくまで周りとは獄寺君達のことで、残りのはオレが雲雀さんの舎弟に入ったとでも解釈してる。時々大変だなって肩を叩かれるから。
そんなこと特に気にするわけでもなくオレは毎日恒例の一人障害物短距離走に勤しむのだ。ちなみに障害物は人混み、廊下疾走を注意する先生などなど。
「雲雀さんっ!沢田ですっ」
教室から一つ下、わたり廊下突っ切ってその突き当たり、そんな端から端の距離にある応接室に2分30秒で辿り着いたオレはノックをしていつもの一声を掛けた。
そうしたら、まるで合い言葉のように中から「どうぞ」と当社…じゃなくて当人比優しい声が返ってくる。
「失礼しまーす。」
「うん、2分30秒。前より早くなったんじゃないの?」
そして、扉を開けるとくすくすとからかいを含んだ笑いで雲雀さんが迎えてくれるのだ。
「そりゃあ理解ある友人が快く送り出してくれるからですよー。って言うか!いい加減校内放送で呼び出すの止めて下さいよぉっ!そのたびに今だ慣れないクラスメイトの好奇の視線の集中放火を浴びるんですからぁっ!」
「良いじゃない。クラスの連中どころか全校生徒に君が誰のものか知らしめられるんだから。」
「それが恥ずかしいんですよー!」
「はいはい。あまり煩く言うと制限時間2分に減らすよ?」
「ギャーッそれは勘弁ですっ!咬み殺し確定になっちゃうじゃないですかっ!!」
「良いじゃないたまには咬み殺されてよ。それなりに優しくいじめてあげるから、さ。」
「ひっばばりさんっ!?」
腕をぐいと引き寄せられ、耳たぶを痛くない程度に噛まれると決まってオレは引っ繰り返った悲鳴とトマトもびっくりの赤面反応を起こす。その様もひどく雲雀さんのお気に入りのようで狼狽えるオレを後ろからさらにぎゅうと抱き締める。
…照れ臭いけど、この時が一番好きなんだよな。
「さて、と。君で遊ぶのはコレくらいにしてそろそろお昼食べようか。」
「はいっ!」
ご察しの通りオレは雲雀さんのもの、彼氏(この場合は彼女なのかなぁ)という位置にいる。
いつぞやの脅し混じりの僕のもの宣言に恐怖に負けて即決OK出したのが始まりそのものだけど、僕のもの=恋人ということでびっくりはしたけど恐怖心は薄れていったし、何よりオレ自身、その日を境に優しさを見せてくれるようになった雲雀さんに少しずつ、けれど確実に落ちていってるからもうそれでいいやと完結しつつある。
ただ一つ困ったことは、オレはまだ一度も雲雀さんに好きと言ったことがないことで。
雲雀さんが気付いてるかどうかは非常に微妙なところだけどね。
もらった気持ちをちゃんと言葉で返したい。でも、タイミングと恥ずかしさ、さらに自分の情けなさが合わさっていつまで経ってもその二文字が言えないでいた。