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□snow heart
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「ちょ、おまえ何やってんの?!」
「…ボス…。」
扉を開けると、パイナップルの雪だるまがいた。
「あ、ボス。これ――」
「わぁー!それより先に上がって!頭に雪積もってるから!!」
「きゃ、…!」
カバンから何かを取り出そうとする腕を引っ掴み、ツナは半ば強引にクロームを家、自分の部屋に連れ込んだ。もちろん積もっていた雪を綺麗に落としてから。ツナの部屋から7時を告げる目覚まし時計が鳴り響いた。
snow heart
「本当ありえないからっ!!」
入れたてのホットチョコを突き出し、ツナは大きなため息を吐いた。
「…ごめん。ちゃんと先に連絡入れてれば良かった」
「や、別にいきなり来たことを言ってるんじゃないって」
未だ水の滴るクロームの髪を些か乱暴に拭き、ツナは続ける。
「6時半からいたんだろ?オレが何時もみたいに寝坊して出てきたらどうするつもりだったんだよっクローム絶対凍ってたよ!?」
現在7時10分。この時間にツナが起床して制服姿であることは非常にめずらしいことだ。
最もそれは本人が望んでそうしたわけではないのだが。
「ランボが6時ぐらいにお腹痛いって叫んで暴れだしてさー。皆叩き起こされたんだ。」
「あの男の子…?何かあったの?」
「よく分かんないんだけどさぁ〜なんか冷蔵庫に冷やしてあったビアンキのチョコレート摘み食いしたみたいなんだよねー。」
ビアンキの料理は良くも悪くも特徴的だ。普段なら気付かないはずが無いのだが、どうやら今回リボーンの為に作った物は愛の込めすぎにより時間差で効果を発揮するものに出来上がってしまったらしい。ビアンキはまたさっきよりさらに愛を込めて作るから良いわと許したためランボは止めを差されずに済んだが、現在彼は病院にて入院中である。
「……大変だったんだね。」
「まぁ、そのお陰でクロームの凍死が免れたから良いけどさぁ。」
「…ごめん。」
「とにかくっクロームも女の子なんだからもう少し体を大切にするんだぞ。骸も多分心配するしな。」
「うん。ありがと、ボス」
「そういえばさ、なんかあったの?朝からずっと待ってたんだろ?」
「うん。これ…」
カバンから取り出したのは薄いピンクの布で可愛くラッピングされていた。
「え、これって…」
「放課後は骸様が出てくるから時間なくて…」
「え、もしかしてこれって…チョコレート?」
「うん。今日バレンタインだから…本当は手作りにしたかったんだけど出来なかったの…」
そう言ってクロームはしゅんと瞳を伏せた。
「気にしなくていいよっ!もらえるだけでもすっげー嬉しいからさ!」
「でも…骸様ったらひどいんだもん…」
こくり、とホットチョコを一口飲んだあと。ぽつりぽつりとクロームは話しだした。
バレンタインでツナ、骸、そして犬と千種にチョコレートをあげようとずっとためていたお小遣いを使って材料や本を用意していたこと。
13日に先に出てきた骸がなぜかチョコレートを作ってツナに渡すと言い出し、買っていた材料を全て使われてしまったこと、度重なる失敗で丸一日クロームの体でキッチンに立ち続けていたため、クロームが出てきた頃には体がガタガタだった事。
骸はクロームの分を残してくれていたが、それをツナに回すのはどちらに対しても失礼で出来なかったこと
当日漸く動けるくらいに回復しても残金300円では材料を買い直せなかったこと。
など。
「え、骸がチョコレートつくったの…?!」
衝撃的事実に思わずツナの口からは大変だったんだなの前に突っ込みが出た。
「うん。器具も幾つか使えなくなった…。今年は僕の手作りチョコレートでボンゴレのハートを鷲掴んでホワイトデーにボンゴレを頂くんですクフフって…。」
「…。」
開いた口が塞がらなかった。
「でも、私嬉しい」
「え?」
「手作りは出来なかったけど、ボスにチョコレートもらえたから…」
「え、チョコレート…?」
「これ…」
ツナの目の前にマグカップを差し出した。そこには残り一口分のホットチョコが入っている。
「ありがと」
「…いや、あははっ…」
ちょっとした恥ずかしさがツナの心を占め、ツナは照れ臭そうに頭を掻いた。
「ツッくーん。そろそろ獄寺君たち来るんじゃないのー?」
「やべっまだ朝飯食べてなかった!」
「じゃあ、ボス…私行くね。」
「うんっ…あ!ちょっと待ってて!!」
バタバタと部屋を跳びだしたツナは数分して少し小さめのマフラーを片手に戻ってきた。
「子供の頃使ってた奴で悪いけどないよりはマシだろ?」
弧を描いて放り投げられたそれは、柔らかい音をたてクロームの手のなかに落ちた。
「良いの?借りちゃっても…」
「大丈夫だって。別に返さなくても良いし。大体オレにはもう可愛すぎるってか子供っぽいだろ?」
小さな熊のマスコットがくっついてるそれをマジマジと見つめ、くすりと笑った
「なっ笑うなって!わかってるさっ小6までつけてたのは流石にまずいってっ」
「ううん、きっとボスなら今付けても可愛いと思って…」
「あーもうっ!分かった!他の持って来」
「ううん。コレがいい。ありがと、ボス。」
真っ赤にしてマフラーを取り上げようとするツナをふわりと、体重を感じさせない身のこなしで躱し、頬にキスを送るとさらに顔を赤くして、金魚のように口をパクパクさせうろたえた。
「またね、ボス。」
満足そうにそう言って、クロームはパタパタと階段を下りていった。
「て、オレも学校っ!」
下から獄寺の声が聞こえた、あわててカバンを引っ掴み、ツナは部屋を後にした。
じんわりと残る頬の熱をなんとかやり過ごしながら。
fin.