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□拍手御礼に使った文と突発SS
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10年後ヒバツナ




この日、イタリアの天気は珍しく荒れていた。風は吹き荒み、あちらこちらで雷鳴が轟く。そしてボンゴレの城はと言うと人気のない山奥に鎮座していた。そのため例え突如ボンゴレの屋敷から悲痛な悲鳴が響いたとしても、雷雨によってかき消され誰にも気付かれることはない。


「…ぁ、…っぅ…」


そして、先程の悲鳴をあげたが周りの音に掻き消され助けを期待できない茶髪の青年―その容姿はむしろ少年に近かった―はびくりびくりといまだじくじくと残る胸元の痛みに体を震わせていた。
そんな青年に乗り上げ、満足気に笑う黒い影、雷鳴で弧を描いた口元だけが何度が見え隠れしていた。


「…綺麗」


青年にまたがる男は髪も服も漆黒ので、下の青年が痛みに顔を歪めるそのさまを見てうっそりと笑い、先ほど己が付けた傷跡に舌を這わせる。
傷に染みるのか青年は堅く目を瞑り、己の上にいる男の髪をぎゅう、と握った。


「ねぇ、これで君は僕のものになるんだよね、綱吉?」


綱吉と呼ばれた青年は未だ引かない痛みに顔を歪めながらも自分に覆いかぶさる男に艶やかな笑みを向け途切れ途切れにだが愛を囁くかのように言った。


「            」



魔王と烙印



「こんな簡単にボスが捕まっちまうたぁ…天下のボンゴレファミリーも墜ちたものだな。」

「そりゃああんな小さな女の子に銃を向けられますと…」

「はっ、流石砂糖よりも甘いボンゴレ十代目だ」

「それほどでも…」


体中どころか顔も腫れ切れた唇から血を流す綱吉を見て男が笑う。ソレにたいして綱吉は傷だらけの顔でへら、と苦笑した。
記憶が正しければ最近勢いを増している新興ファミリーだと綱吉は思う。噂によるとやり方は人身売買、麻薬密売など取り敢えず人道的にアウトなのはわかる。
喫茶店でたまたま面倒を見ていた迷子の少女を人質に取られ、男達に同行する事を選んだのだが奇妙なことに未だ綱吉が殺される様子はない。大方甚振るのが目的なのだろう。


「ところでお兄さん達の目的って何ですか?ボス暗殺とかならその場でやります…よね?」

「今はまだしねーよ。あんたは大事な人質だからな。」


大事な人質をフルボッコにしても良いのかと突っ込む衝動を押さえる。それよりも気になることがあったからだ。


「人質?…どう言うこと?取引ならオレがしないと決定権ないよ?」

「これからあんたのとこの部下と取引すんだよ。」

「部下…と、ですか?」

「あぁ。お前んとこに守護者にちょーっと借りがあってな。あんたをダシにお返ししてやろーってわけ」


(ヒバリさん…もしくは骸か。)


厳密にいつかは忘れてしまったが、二人にとあるファミリーに牽制と警告程度の軽い制裁を頼んだところ、何があったのかほぼ壊滅状態にしてしまったことが多々あった。
その残党が徒党を組んで新たにファミリーを作ったのだろうと綱吉は思った。
やっぱり実力行使はよくないよなぁと今後の任務の振り分けに悩みそうだと綱吉はひそかにため息をついた。


「おいっボンゴレ側が要求を呑んだぜ!雲の守護者を護衛無しで送るってよ!」


その声で綱吉の意識は現実に帰ってきた。


「よっしゃ後はコイツ使って挟み撃ちにして捕まえれば甚振り放題じゃねえ「ぷっあははははははははははっ!」


男達の会話に我慢が出来ずついに綱吉は吹き出し盛大に爆笑した。突然の綱吉の笑いに男は彼を怪訝そうな顔をして睨み付ける。


「おいなんか文句あるのかよコラァ!」

「それかあまりの恐怖に狂ったか?!」

「ごめんっちょっ、3分待って今すぐ落ち着くかあははははははははははっ!!」


笑いを止める気が感じられない綱吉に男達は切れ強制的に黙らされるべく一人は前から腹を、もうひとりは背後から背中を蹴りつけた。当然その衝撃に耐えられるはずもなく綱吉は胃の中の物を吐きだし、静かになった。


「ケホッ…ふぅ。えーとごめんなさい。貴方たちの計画があまりにも楽しくて…つい」

「何がおかしいんだよ」


くすくす。顔のあちこちは腫れ、着ている服もぼろぼろ、おまけに口端からは先程の嘔吐物の残しょうが残っているというのにその姿は堂々としており、醜いどころか美しくさえも見えた。


「雲雀さん…雲の守護者に復讐するためにオレを捕まえて呼び出したんですよね?それならオレを放ってさっさと逃げたほうが良いですよ?」

「…どういうことだ」

「標的に雲雀さんを選んでしまった時点で貴方たちの負けです。致命傷です。骸なら3分くらいは考えるそぶりを見せてくれてでしょうに…」


くすり、ともう一度綱吉は笑う。先程まではへらへらと傷だらけで苦笑していた筈なのに今彼を纏う空気はその真逆にあった。誰よりも純粋な心で獰猛な獣を手懐ける猛獣使い、男達に綱吉はそう映ったのだ。


「…どーせはったりだろ。現にこっちはあんたの命を好きに出来るってカードがある。」


ごり、と右のこめかみに固い何かがあたる。わーこわいなんてわざとらしく呟きながら綱吉はなお続ける。


「だーかーらですねー、雲雀さんにオレの命か自分身の保障かって二択を迫るのがそもそも間違いなんですって。だってあの人魔王ですよ?デッドオアアライブだろうが、デッドオアデッドだろうがあの人は用意された選択肢だけじゃなく、隠しコマンドまでも取っちゃう人だから意味なしです。つーか選択肢がないなら自分で作りますから。オレを秤にかけようならオレごと相手を潰しちゃいますよ」

「…それってあんたもやばいんじゃねえのか?」

「何を今更!当たり前じゃないですか!オレがたどる道はきっとこの後手間掛けたお礼にさらに半殺しですよ!ただでさえ今だって全身痛いのに!」

「じゃなくてお前の現時点の命がだって」

「え?あぁ大丈夫ですよ。とりあえずこの場では死にません。だってオレはクーリングオフ不可の契約させられましたから。破棄したら多分殺されちゃいますけど有効な限りは命の保障はしてくれます。命はね」


そう言っておもむろに視線を落とす。破れたシャツの下、ちょうど心臓のある場所にくっきりと残る火傷の跡。一生残るといわれたそれはよく見ればボンゴレの雲の指輪の刻印と酷似していた。


「というわけで、オレから貴方達に与える最後の選択肢です。今から逃げるか残って死ぬか、さっさと決めちゃったほうが良いですよ」


崩壊の音が聞こえる。前から?後ろから?おそらくどちらも正解だろう。縛り付けられている自分には巻き込まれずに逃げる術は、ない。


「…おい、なんか変な音聞こえねーか?」

「…残念。どうやらタイムアップみたいです。」


その瞬間綱吉の背後の壁がぼこりと盛り上がり彼の周りにいた男共々崩壊する瓦礫に飲み込まれた。
一瞬の出来事に運良く難を逃れた男たちはそろってほかんと口をあけ、固まってしまった。



「やぁ。君達かい?うちのボスを可愛がってくれたのは。」



その真反対、つまりは正面から靴の音を響かせて現われた漆黒の青年。配置していた見張りが来る気配はない。理由は顔や武器、そしてシャツに付いた赤が雄弁に説明してくれるだろう。


「お前…いつのまに?」

「ボスを迎えにこいって言ったのは君達だろう?ならちゃんと引き渡す準備しておいてよね。おかげてあの子掘り起こさなくちゃならなくなったんだから。」

至極めんどくさそうに崩落した瓦礫の山を指さして雲の青年、雲雀恭弥はため息をついた。

何のためらいもなく自分の主人共々奇襲を掛けた。それは主と従で成り立つマフィアの世界から見てさぞ奇怪に映ったのだろう。証拠に雲雀に銃を向ける男達は既に銃を持つ手を震わせて立ちすくんでいるからだ。


「さて、それで僕に話があるんでしょ?何?」


言える訳がない。血に汚れた顔で可愛らしく小首を傾げてみせた雲雀を見て男達はようやく綱吉の言った言葉の意味を理解した。


「ないの?遺言も?なら良いや。いい加減傷ついた群れを見るのも飽きたし、」

さっさと土に還りなよ


そう行って凍てつく瞳で男達を見て獲物を振り下ろした雲雀に彼らは最期にこう思った。


“確かに彼は魔王だった”

と。





「…さて、と。」


匣兵器により瓦礫の山と化した壁(だったもの)際へ足を進める。
綱吉の周りにいた男達は落ちてきた瓦礫の打ち所が悪かったのか、匣兵器のもつ針に貫かれてしまったのか、何れも既に事切れていた。その中に一つだけ妙な形をした匣兵器の一部分があった。

雲雀の持つ匣兵器は自らの形を内側が空洞の球体にする能力を持ち、使用者や相手をその内部に閉じ込めて戦うのに使用される。その匣兵器の球体が丁度二等分されたような形で瓦礫の中に鎮座していた。
ソレに向かい雲雀はカツンと靴底を鳴らし真っすぐと近づいていく。そしておもむろにその球体の前に匣をかざし一言「戻りな」と呟いた。次第に針の付いた球体は小さくなり、最後には可愛らしいハリネズミの姿になり、そのまま匣の中へと帰っていった。


「で、確か子供を庇って人質になったんだっけ?」


球針態があった場所には綱吉が横たわっていた。相変わらずボロボロだが崩落した瓦礫による怪我はない。背後からの奇襲の際、綱吉だけは巻き込まれないように破壊と同時に彼の体を覆ったのだ。そんな彼の頭に足を乗せ、ぐりぐりと嬲るように動かし雲雀は問う。


「…雲雀さん頭痛いです」

「質問に答えなよ。君のおかげで僕の休暇はパーになったんだから。」

「…オレの休暇もです」

「煩い。」


露骨にため息をはく止めといわんばかりに綱吉を軽く蹴飛ばす雲雀。
雲雀の軽くはかなり重い。為す術もなく綱吉の体はそこらの大きな瓦礫の山にべしゃりと叩きつけられた。
そして間髪入れずに綱吉の髪を掴み無理矢理に顔を上げさせる。


「それに、何。その不愉快な傷。ふざけてるの?」

「うぅー…」

「本当に自覚が足りない子だね。君は一体誰のモノ?」

「雲雀さんです。オレは雲雀さんのモノです」


痛みにまだ唸っていたい気分だが、そこだけは即答できないと本当に身の危険にさらされると既に知っている綱吉はそうでしょう?、と破れたシャツをさらに開き胸に残る傷を見せる。


「うん、良かった。綺麗についてるみたいだね」


恍惚とした笑みを浮かべ雲雀はまるで慈しむかのように胸の火傷の跡をなぞる。

雲の守護者でありながら雲雀は独自の立場というスタンスを利用してボンゴレにマイナスになることも多々しでかしていた。
それに対し綱吉は一度だけ「敵、味方どちらにカウントすればいいか明確にして欲しい」と交渉を試みたことがあった。

その時交わした綱吉との会話を雲雀は利用し綱吉を自分のものにするという契約を結ばせたのだ。

炎を灯した指輪を押し当ててつけたその火傷の跡は雲雀がずっと綱吉を自分のモノとして縛り付ける代わりに、この先ずっと彼を守り通すという雲雀なりの約束だ。


「とりあえず帰ったら覚悟しな。この僕を煩わせた挙げ句勝手に怪我した君にたっっぷりお仕置きしてあげる。」

「…」


手術して他の皮膚をはりつけてでも契約解除してやろうかと綱吉は雲雀に荷物のように運ばれながら思った。


「…でもお仕置きが終わったらソレ手当てしてたぁーくさん君の苦労とやらを労って上げるからね。」


だからそんなバカなこと考えちゃダメ、僕が怒り狂って君四肢の骨を砕いて閉じ込めちゃうから。
甘言と狂気を同時に囁きながら俵からお姫さまに扱いを変えた雲雀はそういって最後に額にキスをした。

(…今オレ声にも顔にも出さなかったよな…?)

さらりと思考を読んできた彼はやはり魔王なのかもしれない。



“…ねぇ、君こそいい加減に逃げるの止めなよ。君が僕のモノになるんなら一生捕まえててあげるし、護ってあげる。どんな時も君の傍にいてあげるよ?”

“…そうですね。もしあなたがオレに一生残るあなたのものだって証をくれるなら考えてあげても良いですよ。”


fin






根性焼きは700度のたばこを皮膚に押し当てることでその火傷の跡は一生残るらしい。
雲雀なら煙草を炎を灯した指輪でやりそうだなって思った。700度どころではない。

実はとある少女マンガの燃えたシーンをヒバツナでパろって見たのはここだけの話。
でも突発でやったため、周囲の流れはズタボロ。
あうち

08/12/09
四堂陽
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