Text
□髑-シャレコウベ-髏の夢の唄
1ページ/8ページ
きっかけは些細なことだった。
中山外科からの帰り際、なんとなくツナはあの少女、クローム髑髏の事が頭に過ぎった。時刻は十時を回ったところである。
幸戦いで跡が残るような怪我をしてはいないが、能力ゆえに精神的にはかなりの負担を負った。彼女はきっと担ぎこまれた部屋にて深く眠りについているのだろう。
(大丈夫かなぁ…あの子…。骸が内臓ちゃんと直したんだっけ…?でも…)
まったく見ず知らずの少女が自分の戦いに巻き込まれる形となり、何となくツナの心は重かった。
(少し、チラッと様子見て帰ろうかな…)
どうにもならない感情を払うには今も無事に眠っていることをこの目で確認することだ、そう思ったツナは暗闇の通路を引き返した。
(たしか、ここだっけ…)
突き当りから3番目の個室、クロームが眠っている部屋だ。閉まっている扉に手をかけたとき、ふと不安が過ぎった。
起きないよな…?
某風紀委員長のように木の葉が落ちるような音で目を覚ましたり、
起きなくとも、何かの弾みで彼女の中に眠る骸を呼んでしまったり…
(ええいっ!もうどうにでもなれ!)
たかだか扉を少しだけ開けるためになぜそこまで葛藤するかは分からないが、一先ず決意が出来たらしい。そろりと戸を開け、音を立てないよう慎重に中の様子を見た。
(良かった…寝てる。)
ほ、と一息を付き、役目は果たしたとばかり引き返そうとしたら、クロームは小さな唸り声を上げ身じろぎした。
当然ツナはバレた?!と声にならないパニックを起こしたが、どうやら杞憂で終わったらしい。
(び、びっくりした…)
未だ早鐘を打つ心臓を深呼吸で沈めたツナは、さっきの身じろぎのせいか、かぶっていた布団がずり落ちるのを見た。
やはり夜は冷えるもので、目を覚ましこそはしないが、クロームはふるりと小さく震えた。
(…もういいや。毒をなめるなら皿までって言うしね。)
その諺と今の状況は微妙に違うような気がするが、本人は気にしていないのでよしとする。律儀に、失礼しますと呟き、ツナは部屋へと足を踏み込んだ。
起きて叫ばれたら、とりあえず死ぬ気で謝り弁解させてもらい、間違って骸が出てこようものなら、もう抵抗はしないでやる。本気なのか冗談なのか当人ですら分からない事を考えながらツナは布団を元に戻した。
(…それにしても…綺麗な顔だな…)
骸と同じ個性的な髪形をしているが、きっと元は綺麗なロングかそんな感じだったのかもしれない。どういう経緯で二人は出会ったのか、ツナには知らないし、別に知ろうとも思わなかった。理由がどうであれ、とりあえず目の前の少女はとりあえず悲しそうには見えなかったからだ。
顔にかかった髪を退け、部屋を後にしようとするが、動けない。
理由は単純にして明確。クロームがいつの間にかツナの服の裾をつかんでいたのだ。
(い、いつの間に…)
眠っているゆえの無意識か、思ったより力が強い。無理矢理引き抜くことも可能だが、それによって起こす気にもなれなかった。
オレ朝になったら変質者にでもされるのかなぁ…なんて半ば諦めたようにツナもベッドに背を預け眠りについた。