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□ワールドエンドXX
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!初音ミクの『ワールドエンドWxY』をモチーフにしております。
!雲雀が酷い。酷過ぎる。えげつない。
!後味は頑張って良くしますが…悲恋です。





だって、失くしたくなかったんだ。
初めて本気で好きになった人だったから。




「今日の放課後…おいで。」

教室移動の最中だった。正面から生徒の人混みを割って現れた雲雀はすれ違いざまに、優しい、熱のこもった声でそう一言綱吉の耳元で囁いた。
びくんと、ひとつ。身体を跳ねさせて、ぱっと耳まで顔を赤らめる綱吉を見て満足げに笑い、雲雀はふわふわの紅茶色の髪をポンポンとなでて、そのまま去っっていく。


それは3日振りの“ラブコール”だった。


2か月前、綱吉はずっと片思いをしていた雲雀恭弥に想いを告げた。同性である上に人との慣れ合いを極端に嫌う雲雀相手に望みなんて最初から持ってはいなかった。付き合ってほしいなんて思っていなかった。想いを返してほしいとも思っていなかった。

ただ、…できることなら嫌悪感を表すことなく、その想いが溢れて溺れそうな自分知ってほしい…それだけだったのだ。

だが雲雀は綱吉の告白に対してふっと優しく微笑み、その気持ちを受け入れた。
たった一言だったけど、少し考えた後「僕と付き合う?」そう言われた時、綱吉は天まで登っていけそうなくらい幸せだったのを今でも鮮明に覚えている。




「はい、授業終わったらすぐにいきますね…。」



今はただ、既に遠くにある背中に無理のある笑顔を浮かべて届かない返事をして、自分はとても幸せだと言い聞かせている。

覚悟をしてしまったのだ。きっと今日も自分は一人、後悔に押しつぶされながら帰路に就くのだと。




付き合ってから雲雀としていることに性行為しか挙げることができない。その事実に綱吉が気づくまでそうかからなかった。
今日もそうだった。3日ぶりに応接室に行って、書類作業中の雲雀に微笑みつきで迎え入れられ、ちょっと待っててね、と出されたココアをちびちびと飲む。
全部飲み終わったころに本日の業務を終了させた雲雀が隣に座って、ゆるりと頬を綺麗な指でなぞられてキスをする。その後はこの前と同じ。するりと服を脱がされて、ぱたんとソファーに押し倒されて、後は雲雀が疲れ果てるまで行為に没頭するのだ。

今までに応接室に行った回数=今まで雲雀に呼ばれた回数、
今までに応接室に行った回数=今までに雲雀と身体を繋げた回数、
身体を繋げなかった日=雲雀に呼ばれなかった日、
自分から応接室を訪れた日=雲雀に全く相手にしてもらえなかった日。
気付かないふりをしていたさまざまな要素が次々と等式で結ばれて行った時、綱吉は漠然と自分はまだ雲雀に片思いしたままなのかもしれないと不安を募らせるようになった。



始まりはだ綱吉がただ幸せに雲雀と付き合っていた時のことだ。
風邪のひき始めであまり体調がすぐれなかった時と、雲雀の呼び出しが被ってしまったことがあった。
できるなら今日はえっちしたくないなぁ。その代りヒバリさんの横に座って、暖かくて甘いミルクティーを飲んで普段何してるのかもっと話したいな。
少し緩んでしまった顔でそんな事を思いながら綱吉はこんこん、と小さく咳をしながらも応接室に向かったのだ。

しかし、実際に応接室についてみると綱吉の気持ちも裏腹に、綱吉の体調の変化を知らない雲雀はいつものように額に、頬に、唇にキスをしてゆっくりと服を脱がしていった。
雲雀の愛撫は心地よくて、正直に言うと好きだ。だが、微かに熱っぽいかもと感じていたその日は出来れば雲雀との行為は避けたいとも思っていた。

「…ヒバリ、さん…」

思い切ってプチプチとボタンを外す雲雀に声をかけて制止する。特に気を悪くした様子もなく、動きを止めたヒバリは首をかしげてどうしたの?と綱吉を見上げた。

「あの、オレ今日ちょっとだけ気分がすぐれなくて…」
「…今日はだめ?やめておく?…帰って休む…?今日も綱吉を沢山補充したいなって思ったんだけど…。」

じっと熱の籠った眼差しで綱吉を見つめる。雲雀はきっと綱吉の体調を気にかけてそう言ってくれているのだ。だって、彼の瞳は真っ直ぐに綱吉を見ている。下心なんて見えやしない。

「…綱吉?」
「だめ、…じゃ、ない…です、。」
「…良かった。」

ダメというはずだったその口は、何故か躊躇いながらも反対の言葉をこぼしていた。
安心したように顔を綻ばせた雲雀は行為を再開し、いつものように自分の気が済むまで綱吉の体を貪りつくした。まるで綱吉が体調不良だということなど知らないかのように。

疲れと、行為と風邪のひき始めが重なり、その日の夜、綱吉は高熱を出して二日ほど寝込んだ。
当然、そのあいだに雲雀からの連絡は一切なかった。
熱に浮かされながら綱吉はその時のことを考えた。
どうしてだろうか、雲雀は自分を大事にしてくれている。凄く自分に優しく接してくれている。雲雀は自分を好いてくれている。そう信じて疑わない自分がいる傍らで、雲雀が自分のために挙げてくれた選択肢の中に、「何もせずに雲雀のそばに留まる」というものが含まれていなかったことに一生懸命気付かないふりをしている自分もこの時、確かに存在していたのだ。

きっとその頃から自分の中のどこかで気付き始めていたのだろう。

もしかしたら自分は雲雀に愛されてなんかいないのではないか。
ただ、彼が綺麗な微笑みで吐く嘘の言葉の手駒になっているだけなのではないか、と。


“…逃げたいのか?現実から、隠されているかもしれない事実から。”
「…だれ?」

綱吉が雲雀の想いに疑問を抱き始めた時、綱吉の中の暗雲が少しずつ大きくなり始めたとき、彼は現れた。綱吉の見る夢の中に、同じ“沢田綱吉”を名乗る自分と瓜二つの少年が。
まるで鏡で様に同一の姿かたちをした少年。ただ一つ違うところがあるとすれば、その少年は暁色の瞳を持ち、いつもオレンジ色の炎を額に灯していることだった。なぜだかわからないが、その綺麗な色をした瞳はいつも切なげに歪められ、悲しみ、そして苦しみに染まっていた。
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