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□ウソツキアイ
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沢田とのいわゆる“お付き合い”が始まって3日経った。
けれど僕と沢田の関係に変化は、ない。(まぁそれ以降絡んでないから当たり前といえばそうだけど。)
窓から2年の体育をぼんやりと眺めた。言うまでもなく彼のクラスだ。
(相変わらず群れているのか…)
いつもの取り巻きが左右を挟んで談笑している。授業は良いのか授業は。
付き合っているにもかかわらず一度も会いに来ないでいつもと変わらず友達と過ごす彼。
僕が本当に彼が好きなら嫉妬なり何なり妬くところだろう、この状態、そして今目にしている光景に。
だが生憎彼への好意など持ち合わせていない僕には他人事だ…けれど、コレはコレで都合が悪い。
僕は自然消滅を狙ってわざわざ告白を受けたわけではないんだ。
「…めんどくさ。」
自然と深いため息が零れた。とりあえず仕事を先に片付けよう。
「あの、…ヒバリさんいらっしゃいますか…?」
昼休みに入ってさっそく僕は放送で彼を呼んでみた。何分かすると控えめなノックと伺うような彼の声が聞こえた。
「入っておいで。」
比較的穏やかにそう言ってやるとゆっくりとドアが開いた。先にいるのはもちろん沢田だ。
「…弁当は持ってきたみたいだね」
「あ、はい…。あの、何かあったんですか?」
「何かって?」
「え、その…いきなり放送で呼んだりしたので…」
「何、恋人と昼を囲おうと思ったのがそんなにおかしい?」
(我ながらわざとらしい言い回しだな。)
自分の口からこうもスラスラとこんな言葉が出てきて思わず内心で笑った。
「こっ…恋人…!」
「ふっ…何照れてんの。それにどういうつもりだい?好きだと言ってきた割に今日僕が呼ぶまで何もしてこないなんて。」
(これじゃあ咬み殺すのを我慢してまで告白を受け入れた意味がないじゃない。)
「ごっ…ごめんなさい!オレ、その付き合うとか良く分からなくて…勝手に来て迷惑にならないかなって思って…」
「むしろその逆だよ。折角君を傍に置けるのに何でわざわざ自然消滅を待たなきゃいけないの?僕はそこまで暇じゃないよ。」
「ひ、ヒバリさん…!!」
「ほら、いつまでも真っ赤になってつっ立ってないで、おいで?」
「は、はいっ」
ゆっくりと微笑んでやると彼も釣られて少しぎこちないがへらりと笑った。
…僕の演技も捨てたものじゃないな。
その日の放課後も来るように言って、その次の日も同じように繰り返したら何も言わなくても彼から応接室に会いにくるようになった。
それでも、自分なんかが会いにきても良いのかと言う雰囲気を醸し出す彼に甘く作ったココアやミルクティーを遇してやると漸く緊張のない笑みを浮かべるようになった。
その後も少しずつ、少しずつ甘やかして、抱き締めて、触って、愛を囁いて彼から心から安心した表情とやらを引き出していった。
それはさながらヒトを恐れて懐かない小動物を懐柔させていくようで滑稽に思えた。ヒトを知るべきでない彼らにヒトを教えて、信頼させて、依存させて、そしてある日に外界へと追い出す。右も左も味方も敵も分からなくなって狼狽する様はきっと哀れで愉快なんだろうね。
「ねぇ、沢田…好きだよ。」
「あっ…オレも、ヒバリさんが大好きですっ」
簡単な子。
そうやって張りつけた“愛しいものを見る微笑み”の裏でひたすらに彼を嘲る事で、幸せに綻んだ彼の笑顔を本当に可愛いと思う僕をどんどん記憶の海に沈めていった。