Text2

□与えるのは二者択一ですらない何か。
2ページ/6ページ




「…早くお迎え来てくれるといいな。」

お菓子の籠を膝に抱えて綱吉は近くの岩を背に座り込む。
以前に大人たちが言っていた。野生の獣は炎が嫌いだから火を焚いていれば近づいてくることはないと。
かぼちゃの光があれば、オオカミや野生の動物は寄ってくることがないだろう。
だが、怖がりで、そしてさみしがり屋の綱吉は灯りがあるとはいえ、周りに何もないことのさみしさを我慢できるほどまだ大人ではなかった。
小学校で習っている歌を歌ってみる。
来週にはテストがあるのだ。よく音をはずしてみんなに笑われている綱吉にとってはちょうどいい練習の機会かもしれない。
最近ようやく覚えた歌詞を音に載せる。
ぼんやりとしたオレンジの光がスポットライトみたいで綱吉は少しだけ得意げになった。

「相変わらず音痴だね」
「今の音、半音あげるんだよ」

そんな綱吉の歌声にクスクスと笑う二人の男の声が重なった。

背後には自分より大きな二つの影。影の顔は見えないはずなのに、自分の背後に立つ二人の男が笑っているように思えた。
びっくりした綱吉はぎゅっとお菓子の籠を抱き込み、だれ、あっちにってよ…とか細い声で追い払おうとする。

「怖がらなくても大丈夫だよ」
「僕たちはただ君に会いに来ただけだから」

こっちを向いてごらん?背後からの高い二つの声に反射的に振り向き、恐怖にこわばっていた綱吉の顔がほんの少しだけ、安堵で緩んだ。
そこにいたのは自分より少しだけ幼い子供だったからだ。
魔法使いの格好だろうか、黒い髪の釣り目の少年は真っ白のとんがり帽子に真っ白のマントを羽織り、同じ顔をした明るい色の髪の少年は反対に真っ黒のとんがり帽子に真っ黒のマントをまとっていた。

「…こ、こんばんは。君たちも列からはぐれちゃったの…?」
「何言ってるのツナ?」

自分と同じ列から外れた迷子だったら安心して風の到着を待っていられる。
そうおもい、恐る恐る話しかけてみると、銀髪の少年はきょとり、と首をかしげた。

「変なこと言うね。君の姿を見つけたから会いに来てあげたのに。ねぇ、ツナ」
「?君たちオレのことを知ってるの?どこかであったことある?」

今度は黒髪の少年がじっと見つめて不思議なことをいう。
確かに自分のことをツナと呼ぶ人はいるが、彼らに見覚えはなかった。
黒紫の瞳と青の瞳がじっと探るように自分を見つめている。
ちょっとした居心地の悪さを感じて綱吉はほんの少しだけ後ずさる。
そんな彼のおびえた様子を見てとった少年たちはしばしの間顔を見合わせ、ほんの少しだけ、さみしげにため息をついた後、まず明るい色の髪をした少年が静かに綱吉のほうへと向き直った。

「…どうやら人違いだったみたい。ごめんね。僕はアラウディ」
「…僕はヒバリ」
「あ、オレは沢田綱吉…。オレもみんなからはツナって呼ばれてるから間違えちゃったのかな?」
「ねぇ綱吉、よかったら僕たちの家に来ない?今ハロウィンパーティーの最中なんだ」
「え、パーティー?…二人で?」
「群れるのは嫌いなんだ。アラウディは別にいいんだけどね、余計な物音立てないし」
「子供なんて煩わしいだけだからね。まぁヒバリはいるのかいないのかわからないから別に良いんだけど」

アラウディもヒバリも綱吉から見たら小さな子供のはずなのに。
この調子だと二人の言うパーティーは黙々とお菓子を食べているだけなのではないかと綱吉は思う。

「お、面白そうだね…。でもオレ、お迎えが来るまで待ってないと」
「こんなところで?怖くないの?」
「そりゃあ怖いけど…。でもまだここなら明るいし…」
「そうだね。でも僕たちの家のほうが明るいよ。温かい飲み物もおいしお菓子もあるし」

アラウディが指差す先には確かに明かりがともった大きな屋敷が見えた。
こんな森の中にこんな大きな家なんてあったっけ?
一瞬綱吉は首をかしげるが、でも目の前には確かに人が住んでいるのがわかる屋敷がある。
考え込んでいる綱吉の手をヒバリがつかむ。
びっくりして顔を上げると、何してるの、早く行こうよとくいくいと手を引いてくる。

「え、あの…でも…」
「来てくれないの?」
「折角綱吉が好きそうなお菓子がたくさんあるのに…」

むぅ、と拗ねて見せるヒバリと、しょんぼりと暗い顔を見せるアラウディに綱吉の罪悪感が突かれる。
こんな小さな子供たちが人違いとはいえ、せっかく自分を見つけて誘ってくれているのになんだか申し訳ない。
ねぇ、だめ?とヒバリに上目づかいで問われ、結局綱吉は強く断ることもできず、両手を引く二人に連れられるまま森の中にそびえたつ屋敷へと入っていった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ