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□与えるのは二者択一ですらない何か。
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trick or treat! trick or treat!
普段は夜には静まり返る村々をジャック・オ・ランタンに火を灯した子供たちが闊歩する。
子供たちはそれぞれ魔女に天使に黒猫、ゾンビに吸血鬼にフランケンシュタイン、思い思いの仮装をしてきゃっきゃきゃっきゃと互いに笑いあいながらかごいっぱいになったお菓子を見せ合っていた。
ハロウィンの村の行事として、夜にお菓子集めをした後、祭りのの締めとして大人の引率の元森の奥の泉まで仮装パレードをしてそこにジャック・オ・ランタンを浮かべるという慣習がある。
お祭りが無事に終わったことへの感謝を示すのだ。

「皆さんちゃんとついてきていますか?帰りは灯りは置いていくので離れないでくださいね」

村一番のしっかり者の風が松明を片手に列を振り返る。
子供たちは笑いあいながらもはーいと良い子の返事を返した。
その中で村一番の小さな少年、綱吉は彼の友人の山本と一緒に列の一番後ろを歩いていた。
綱吉の耳には真っ黒な猫耳と尻尾が生えており、山本の顔は真緑に塗りたくられていて頭に斧が刺さっている。どうやら二人は黒猫とゾンビに模しているらしい。

「真っ暗で怖いね、山本…!」
「皆で歩いてるっつっても森の中だもんな!手つないでてやるから離れるなよ?お菓子もちゃんと持って」
「うん」

両手がふさがっているため、ジャック・オ・ランタンは首から下げて綱吉は歩く。
普段は近寄るのも怖い夜の森だが、一番の友人が手をつないで励ましてくれているため、この日は綱吉は怯えることなく歩くことができた。

“ねぇ、あれツナじゃない?”
“ホントだツナだ”
“変わってないね”
“うん、変わってない。面白い格好してるよ。黒猫可愛い”
“また僕たちと遊んでくれるかな”
“また僕たちといてくれるかな”
“また僕たちに笑ってくれるかな”
“楽しみだな”
“うん、楽しみだね”

クスクス。クスクス。

ジャック・オ・ランタンを折り返し地点の泉に一つ一つ浮かべていく。
広く暗い泉に浮かぶオレンジ色の光の塊に子供たちは神様に今日という日をありがとうと声高々に叫んだ。

みんな揃ってますね。ここからは危ないからしっかりついてきてくださいね。
風のよく通る声が夜の闇に響く。子供たちはあはは、きゃはは、と笑いながら松明を片手に持つ風のあとをついていった。
お祭りのクライマックスに興奮する子供たちの中に、あたりに混ざる異質な笑い声に気付く者はいなかった。

「あ!」

がくんと一瞬視界がぶれて綱吉の手からバラバラとお菓子が落ちる。
大方木の根っこに引っかかってしまったのだろう。周りの子供たちはだめつなーとはやし立てながらその横を通り過ぎていく。
あわわとあたりに散らばったお菓子を拾い上げる。大丈夫かと擦りむいた膝小僧をハンカチでふきながら山本も拾うのを手伝っている。

「大丈夫」
「お菓子減っちゃったな」
「半分になっちゃった」
「帰ったらオレのやるよ」
「ううん、周りにまだ落ちてるもん。それ拾ったらまたいっぱいになるよ」
「でもよ、列がどんどん離れていくぜ?」
「うん、だから山本は先いってて!オレ拾ったらすぐに追いつくから」

その考えに山本は正直な話反対だった。
ただでさえ暗い森の中。しかも息と違い松明をおいてきてしまったため、視界はさらに悪くなっている。
風から少し離れた最後尾は前の子供の服をしっかりつかんでいないと危ないくらいだ。
このまま綱吉を待っていると確実に列において行かれてしまう。
最前列の風は真ん中より少し後ろにいた綱吉がこけたのに気付いていないからだ。
山本には人一倍怖がりの綱吉をおいて迷子にさせてしまうくらいなら二人で一緒に迷子になってお菓子を食べながら夜を明かすほうがいいのではないかと思えた。

「良いよ。一緒に拾おうぜ」
「大丈夫だよ!それに山本、明日は野球の試合でしょ?オレと一緒にいて迷子にでもなっちゃったら大変だよ!それに、後ろ見ればまだオレンジの明かりが見えるもん。怖くなったらオレそこで待ってるよ!」
「うーん…確かに泉で待っててくれるならすぐに風に言って迎えに来てもらえるよな!じゃあオレ、先に行って風に言ってくるな!ツナが転んじまってはぐれて一人泣いてるって!」
「ちょっと!いろいろ変なのが加わってない?!」
「冗談だって!じゃあなツナ!オレすぐに風呼んでくるから泣いちゃだめだぞ!」
「泣かないって!」

結局珍しい綱吉の正論に押された山本は待ってろよー!と手を振りながら綱吉と別れ列へと走って行った。
この調子ならすぐに先頭の風に追い付くことができるだろう。
せっせとお菓子を拾い集め、急いで綱吉はオレンジの光を目指して一人もと来た道を戻っていく。先ほどまで子供たちの声でにぎわっていた泉は今はしんと静まり返っている。
時折フクロウの声があたりに響いたが、今回ばかりは暖かな光が泉を包み込んでいるためかそこまで怖くはなかった。
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