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□飼育小屋の兎番長
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♪大―きくなくても 小―さくなくてもとーもだちだー♪
みーんななみなみ みーんななかよし なーみーもりこー♪

そんな軽快な歌が毎週月曜日の朝に聞こえてくる並盛小学校、通称並小にはいくつか並小名物として全校生徒に広く知られているものがある。
一に男子生徒は重症でも見ない保健室の先生シャマル、二に老若男女果ては動物までも虜にして並小のムツゴロウという称号までほしいままにした10年前の卒業生総代イタリアからの転校生ジョット、三に唯一ジョットにだけ懐いた兎小屋の冷酷兎のアラウディ、他にも四に五に…といろいろあるのだが、そのうちの一つは現在5年3組を震撼させていた。

「せんせー!私、ダメツナを飼育係に推薦したいと思います!」
「おっおれも!おれもダメツナが飼育係にふさわしいと思います!」
「え、なんで…?!おれ、掲示係やるって…」

今まさに5年3組の生徒が一丸となって一人の男子生徒に押し付けようとしている飼育係の世話する黒兎、通称「兎番長」のヒバリだった。
並盛小学校では高学年、つまり5年生から開校以来大事に育てられている鶏小屋、兎屋の動物たちの世話を任されることになっているのだが、そこ2代目の兎、ヒバリはとにかく誰にも懐かない上に、凶悪凶暴、さらには小屋の中で同居しているほかの兎たちをまとめ上げている、所謂人間でいうボスのような凶暴兎だった。
小屋の掃除をしようと他の3羽の兎たちを小さな仮小屋に移し替えようとすると、しがない小動物のはずなのにやけに発達した爪や歯で容赦のかけらもなく引っ掻き、噛み付いてくる。傷だらけになって掃除を終え小屋から出ようとするとヒバリは小屋の入り口に先回りし、威嚇し、飼育係が出て行こうとすると実力行使で邪魔をする。
おかげで今まで不幸にも飼育係に任命された毎年の5年生は1学期間その任期が終わるまで生傷が絶えなかったという。

ちなみに渦中の少年、沢田綱吉がやろうとしている係、掲示係も飼育係と並ぶ不人気な仕事だった。
教師からの雑用が多く、貴重な長い休み時間や放課後が割かれてしまうからと、4年生の時に綱吉はこれまた不自然な全員一致の推薦で学期単位の任期のはずが通年でその仕事を押し付けられていたのだ。だが綱吉は、1年間その任期をしっかり全うし、そしてその時の楽しかった思い出を通してをクラスのみんなが嫌がる掲示係にちょっとしたやりがいを見出しているところだったのだ。
頑張っている生徒には出来が悪くても根気強く教えてくれて、生徒が困っているときにはいち早察して親身になって話を聞いてくれる。当時受け持ったクラスの生徒だけでなく、周りのクラスの生徒にも人気だった担任の風は、毎回きちんと決まった時間に掲示物を取りに来て係としての仕事をこなす綱吉をたいそう気に入り、可愛がってくれたのだ。
クラス皆の作品を壁に張り出す際は、大きなポスターの束を一生懸命教室まで運ぼうとする綱吉からすっと半分の束を抜き取り「今日は量が多いですから、私もお手伝いしますね」と笑い、慣れない作業に貼り付けた紙が歪んだ時は優しく丁寧に綺麗に貼るコツを教えてくれた。画鋲で手を怪我をした時は血相を変えて手洗い場まで連れて行き適切な処置をしてくれ、「あまり無理はしちゃダメですよ」と苦笑交じりに動物柄の絆創膏をくれた。
掲示係になったことにより風を訪れる機会が増え、話す機会が他の生徒よりも格段に増えた綱吉は二人きりの教室で今日の授業はどうでしたか?最近楽しいことはありましたか?と風と他愛のない話をすることをいつも楽しみにしていたのだ。
もっとも風はそのまま引き続き新4年生の面倒を見ることになっているため、綱吉と会う機会は減ってしまったのだが、ダメツナと呼ばれる自分にもきちんと出来る仕事があると教えてもらうきっかけとなった掲示係には人一倍の愛着もあり、今年も相変わらず立候補者がいないのならとひっそりと手を挙げて係を確定していたのだ。

余り物を押し付けるための格好の的、周りの生徒にそう見られている綱吉が早々に自分の係を満場一致で決めてしまったため、最後まで残っていた飼育係にクラスで一番おしゃれ好きな少女に白羽の矢が立ってしまったのだ。当人は二人以上の人を要する係に友達と入りたがっていたのだが、人気のある係ゆえにじゃんけん勝負となり、運悪くも連敗してしまったのだ。
がんばって、きっと大丈夫だよ!周りの友人たちが励ますが、今まで見てきた傷だらけの5年生たちを見て完全に怖くなったその少女は綱吉に飼育係を押し付け、掲示係を奪い取ろうとしたのである。

大体どうしてダメツナが先にかかりを決めるのよ!と内心で毒づきながらも得意の猫かぶりで担任に綱吉を推薦すると、その少女に好意を抱いているクラスで一番目立つ少年が便乗し、そして、去年と同じ状況が生まれてしまったのだ。
困惑する担任が綱吉に視線をよこす。予想外の事態に綱吉は可哀想なくらいにたじろいたが、綱吉とて1年かけてようやく慣れて、うまくできるようになった唯一の係をそう簡単には諦めたくはなかった。小さな声でだったが、一生懸命自分は掲示係をやりたいと意思を伝えたのだが、自分の身の安全がかかっている少女はそう簡単には諦めなかった。

「だいたい!ダメツナは去年1年間ずっと掲示係をやってました!それなのに今年も掲示係をするなんてずるいと思います!他にやりたい人がいるなら譲ってあげるべきです!」

そーだそーだと声をそろえて少女を擁護する周りの子に綱吉の表情は泣きそうに歪む。確かに綱吉は風とお話しできる機会欲しさに連続して掲示係をやったが、それでも最後に余った係に立候補をしただけだった。綱吉が万が一に嫌だといってもその係は回ってきていただろう。大体クラス替えをしているのだから去年何の係をやってもリセットされるのだから問題ないはずだ。
それにもかかわらず、少女の声に賛同してしまい騒ぎ立て始めた周りの声に押されてしまった担任はやんわりと少女の肩を持ってしまったのだ。

「沢田…お前も去年と同じ係では楽しくないだろう。新しい体験ということで今年は違うものもやってみたらどうだ?」

担任の教師にまでそういわれてしまい、逃げることができなくなってしまった綱吉は、泣きそうな顔をくしゃっと笑顔にして「むずかしそうだけど、やってみます」と返事してしまったのだ。
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