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□サイレントビーストの愛情表現
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何群れてるの、咬み殺すよ。

そう言おうと思い口を開いたが、目の前の生徒たちはぽかんとしてただこちらの出方をうかがうだけだ。群れるな、咬み殺す。もう一度そう言ってトンファーを構えてみるとはっと我に返った生徒たちは蜘蛛の子を散らすように雲雀の前から逃げ出した。結果的には不快な群れを排除することができたのだが、雲雀は不機嫌そうに顔をしかめた。周りの音は何一つ狂いなく正確に聞こえる。だが、自分の声だけが聞こえない。

「委員長どうしたんですか?」

いつになく不機嫌な様子の雲雀に草壁は不思議そうな顔をする。

副委員長、今朝の見回りはどうだったの?
「…は、い…?」
見回りはどうだったかって聞いているんだけど。違反者はいたの?
「…失礼ですが委員長、もう一度言ってはいただけないでしょうか?」
今日の違反者は?
「…?」

冷や汗をかき、本当に困惑した様子で自分を見る草壁に雲雀はため息をつき、出来の悪い部下はいらないと朝から草壁を咬み殺す。自分を心の底から尊敬し、どんな理不尽な扱いをしても全力でついて来ようとする彼にそんなことを言ったら切腹しそうな勢いだが、どうせ聞こえていないのだから構わない。
草壁のやり取りで雲雀は確信した。

自分の声が全くでなくなっていると。

別に普段周りの人間と必要以上の会話などしない。自分の指示を整列して待つ風紀委員たちならば筆談でも使えば多少時間がかかっても自分の意思を正確に伝えることができる。だがしかし、雲雀にはもう一つ筆談では解決できない問題を抱えていた。彼が並々ならぬ好意を抱く少年、沢田綱吉に関してのことだ。

初めて抱いた綱吉に対しての感情を持て余すヒバリは彼が必要以上におびえると咬み殺し、彼が必要以上に群れると咬み殺し、彼が自分のそばに少しでも長くいるために咬み殺すと脅しながら自分の好意を伝えていた。

そんなことでは到底綱吉に好意など伝わるはずもないのだが、そこで役に立つのが言葉だ。
雲雀の存在=秩序であれば殴って文句を言われても「だって怯えすぎて不愉快だから」「だって群れすぎてうっとおしから」と後付でいくらでも綱吉を閉口させることができるからだ。群れるのも群れを見るのも嫌いと普段から公言しているし、誰だって何もしていないのに必要以上におびえられるのは気分が悪い。

現にそう言ってやると綱吉はすぐにごめんなさいとオレて「それで…ヒバリさんはオレに何の用があるんですか?」とびくびくしながらも真っ直ぐに雲雀を見てそう言ってくれるのだ。
だが、その言葉を迅速に出すための声が使えないのなら訳の分からぬまま殴られてひぃ!ごめんなさい!と逃げられるのが落ちだ。ただでさえ、雲雀が綱吉に近づくと獄寺や山本が過敏に反応するのだ。下手な行動で奴等をうるさくするのは得策ではない。

そこで雲雀は考えたのだ。
頼りになるのは己の行動のみ。ならばもっとあの愚純で鈍感で馬鹿でそれでいて可愛い小動物でもわかりやすい愛情表現に改めようと。
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