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□せかいがひらいて、きみをすいて、
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ヒバリン城が崩落したらしい。

風の噂でそのことを聞いた時ツナはまさかあのヒバリンがと笑い飛ばし畑仕事に勤しんでいた。怪物使いだからと魔法使いのリボじいに半ば無理矢理に仲間を集めさせられて討ち取りに行った吸血鬼ヒバリン。
吸い殺すのが口癖の癖にトンファーを使って物理攻撃を得意として、ついてきてくれた仲間たちを一瞬で全滅させてくれた反則気味の吸血鬼。まぐれで死ぬ気状態で彼の横っ面をぶん殴り一応勝者となったツナに次は必ず吸い殺すと言い残してお城に引きこもった吸血鬼。
そう簡単にやられはしない彼の城が崩れるなんて、ツナにはにわかには信じられなかった。

「案外嘘じゃね―みたいだぞ?」
「わ!リボじいお前いつのまに!」
「1週間前に大きな嵐があっただろ?その時に落ちた雷、ヒバリン城を直撃したって噂だ」
「え、」

雷、落雷。

仲間に雷小僧のランボがいたけれど、嵐と一緒に来たそれはきっとランボの癇癪で落とすそれとは比にもならないだろう。少しだけ心配になってきた。怖くて凶暴な吸血鬼だと言うけれど、落雷であの大きな家を失うのはあまりにも不憫だ。思わずいつの間にか背後にいたリボじいにヒバリン無事だよなと恐る恐る声をかける。

「気になるなら見てくればいいじゃねーか」
「えぇえ。なんもなかったらどうすんだよ。オレ殴られ損じゃん」
「アホか。怪物使いなら反撃してこい。さっさと行かねーと…」
「ちょ、オレまだいくとも言ってなかったのに…!」

結局リボじいに銃を向けられてしまい家を飛び出す形になってツナはヒバリン城へと向かって行くことにした。

――何もないならそれに越したことはないんだけどさ。

出かける前にきっちりと救急箱を持って行ったツナを見送ったリボじいはまだまだ甘ちゃんだなとにっと口の端を上げて笑った。

* * *

落雷なんてそんなマンガみたいなこと起こらないだろう。例えあってもあのヒバリンがそう簡単に倒れるはずない。心のどこかでそう思い込んでいたツナは実際目の当たりにしたヒバリン城に言葉を失った。

城が真っ二つに割れて煙が上がっている。

「うそ…」

激しい雨が降ったにもかかわらずところどころは未だちろちろと小さな煙を上げている。その惨状にツナは慌てて救急箱を抱えて中へと入っていった。

「ヒバリン、ヒバリン!いるなら返事してください!」

どれだけ叫んでも煩いよと帰ってくる声も、わざわざ吸い殺されに来たのかいと馬鹿にしたように笑う声が聞こえてくることはない。
たまたま外出中だったのだろうか。それなら不幸中の幸いと家に帰ることができるが、もしも落雷に巻き込まれていたら…。
ツナの背中につーっと冷たい何かが伝い落ちた。探さないと、ヒバリン探さないと。
半分泣きそうになりながら城の中を駆け回り、瓦礫に躓きなんどもすっ転び、ツナはヒバリンの姿を丸一日探し続けた。

「ひ、ヒバリン…!」

一番崩壊が酷くて後回しにしていた場所にヒバリンはいた。
幸い瓦礫に下敷きになってはいないようだが、落ちてきたガラスか何かで切ってしまったのだろうか、目の辺りをぱっくりとやってしまっている。
傍に黒こげになった丸い物体が転がっている。触ったらボロボロとこぼれてしまったが、うっすらと白い何かが見え、細長い何かが突き出ていた。恐らくココナッツジュースだったのだろう。ヒバリンが倒れているすぐそばには腐ったハンバーグが転がっていた。
よりによって食事中に落雷に巻き込まれたのか。不幸過ぎる。
初めて対峙した時に饒舌にココナッツジュースとハンバーグが好きだと言っていたヒバリンを思い出し、いくらなんでもあんまりだろうとへなへなと崩れ落ちた。
恐る恐るヒバリンの口元に手を翳してみるとかろうじて生きていた。最後に見た時よりも一、二回りほど小さくなっている気がしたがそんなこと悠長に考えている暇がない。
応急処置をするにももう辺りは既に暗くなっている。万が一戦闘が発生した時に備え持ってきていたモンモンキャンディーを飲み込んで、ツナはヒバリンを抱えて自分の家へと帰っていった。
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