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□ヒバリンとアラリンと怪物づかいツナ
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「僕を退治しようなんて良い度胸だね!そんなむかつく奴は吸い殺す!」

混じり気の無い怒りを乗せて黒い髪の子供が叫ぶ。
年相応に怒ってみせる彼の気に当てられて周りに止まっていた蝙が一斉に飛び立った。

「僕を退治しようだなんて千年早いよ。そんな愚かな子は喰い殺してあげる」

明確な嘲りを籠められた青い目をすっと細めてプラチナブロンドの髪の子供が嗤う。
小さな子供の姿をした彼はそこらの大人よりも遥かに大人びている。
氷のような冷たい眼差しでその場の空気が数度下がった気がした。

自分の半分の背丈しかないのにそれらの放つオーラは背筋が凍り付きそうなくらい獰猛でまがまがしい。肌に刺さる殺気が痛い。
この二人の子供が吸血鬼ヒバリン、吸血鬼アラリンと人々から恐れられている理由を身を持って知った。
一瞬怯んだ好きにヒバリンがトンファーを構えて先制攻撃を仕掛けてくる。

まさかの吸い殺す(物理)かっ!というかトンファーまったく関係ないよ!
予想外なヒバリンの攻撃方法にツナはぎょっとするか寸でのところで攻撃をかわした。

「よそ見してちゃ危ないよ?」

すぐ背後でもう一人分の声が聞こえたかと思うとそこには手錠を構えて哂うアラリンがいた。
手錠で喰い殺すの?!
そんな突っ込みなどする暇亡く右手を取られ数メートル先の壁へ叩きつけられた。

「ぐっ…いったぁ…!」
「ちょっと!僕の分まで取らないでよ」
「仕方ないでしょ。この子が弱いんだもの」

バカにした様子で肩を竦めてみせるアラリンに綱吉は確かにこれは修行を受けてなければやばかったと息を吐く。
リボ爺に修行後の試験も兼ねた言い渡された初めての仕事は二匹の小さな吸血鬼退治だった。相手が二匹なら苦労しそうかもしれないなぁ程度にしか考えていなかったがとんでもなかった。
寧ろ吸血鬼の親玉二体をを相手するようなものだ。

「早く君の手の内を見せてよ」
「捩じ伏せてぐちゃぐちゃに吸い殺してあげるからさ」

完全になめ切った様子の吸血鬼二体にツナはお言葉に甘えてとモンモンキャンディーを飲み込んだ。
額に炎が灯る感触に未だに慣れない。
雰囲気が変わったツナにヒバリンもアラリンもぴくりと反応し構えを取る。

「…ワオ」
「あれが怪物遣いか」
「…かかってこい」

オレンジ色の光を灯しツナはヒバリン達を真直ぐに見つめる。
好戦的…とは少し違った覚悟のこもった眼差しだった。
その目に引き寄せられるかのようにヒバリンとアラリンが今度は同時に飛び出してくる。
それを最小限の動きで回避し炎の灯った手をヒバリンに伸ばした。

「!」

頬を掠めた炎にヒバリンは思わず飛び退いた。炎という割に焼くような熱さはない。
だが触れたら危険だ。吸血鬼としての本能がそう訴える。
アラリンもツナの炎に思うところがあったのか邪魔だな…と呟き手錠の数を増やして警戒態勢を取る。
額の炎がノッキングするように不規則に揺らめく。
――何かがくる。
そう察知したアラリンが長く鎖を伸ばした手錠を投げてツナに攻撃を仕掛けた。
投げられた手錠はその場を動かないツナに向かって真直ぐに飛んでいく。

それが顔にあたったと思ったとき

「な…」

アラリン放った手錠が一瞬のうちに凍り付けになった。
――どこから氷が出てきた?
そう考える間もなく氷は手錠の鎖を伝い物凄い早さで広がっていく。
あわてて手を離したが袖の一部が巻き込まれてしまいアラリンがぐいっとつんのめる。

「…まずは一人」

炎の機動力を使ったのかアラリンのすぐ前まで来たツナにアラリンはツナに吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。

「…このっ!」

予想外のツナの強さにヒバリンもすかさず背後からツナに殴りかかる。
トンファーの切っ先がツナへと掠めるが、トンファーを振り切って好きが出来たその背後にいつのまにかツナが回っており、

「がっ…!」

アラリン同様ヒバリンも吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。

「…終わりだ」

両手のツナの炎が大きく揺らめく。
このままじゃやられる。
あの炎が吸血鬼にどう作用するのかは分からないがただではすまされないだろう。
本能的に絶対的な危険を察知したヒバリンとアラリンは互いに一瞬だけ目配せして、

ピィイイイイイイイイ!
びゃああああああああ!

声を上げて泣いた。

「なっ、えっ…えぇっ!?」

あまりに予想外の行動に今度はツナが固まった。勢い良く灯っていた炎もどうしたらいいのか分からないと言わんばかりに小さくなり、やがて消えた。

「えっちょっ…な、なんで!?」

ピィイイイイイイイイ!
ぴゃああああああああ!

ツナが戦闘態勢を解きおろおろしはじめても二人が泣き止む様子は無い。

「だっ、だって…!二人とも何もしてない人に襲い掛かって血を吸ったんでしょ!?」

ピィイイイイイイイイ!
ぴゃああああああああ!

ぺたりと座り込みわんわん泣き続けるヒバリンとアラリンにツナもだんだん涙目になる。
リボ爺の教育の甲斐あってみんなの危険を脅かす悪い怪物はやっつけないといけないと言う覚悟は定まった。
だが戦意を喪失して泣き出す相手に止めを指すなんて覚悟は持ち合わせていない。
どれだけ鍛えられようとお人好しの性根だけは変わることが無かったからだ。

ピィイイイイイイイイ!
ぴゃああああああああ!

二人の泣き声に超音波でもあるか周りの地面や岩に亀裂が入り始める。
それを見てぎょっとしたツナは早くこの二人を泣き止ませないとと必死に思考を巡らせる。

「分かった!分かったから!君たちを退治したりしないからっ!」

慌ててそんなことを言ってしまうがヒバリンとアラリンは怪物の中でもブラックリスト入りの危険種だ。
野放しにしてしまうとまた被害が出てしまう。
というかリボ爺に殺される!

「オレの遣いになれ何ていわないから!」

ピィイイイイイイイイ!
ぴゃああああああああ!

「オレが二人を引き取るからっ!必要ならオレの血を飲んで良いからっ!後は、えっと…他の人に襲い掛からないって約束するなら、オレのところにちゃんと帰ってくるなら自由にしてていいからぁぁあ!」

お願いだからもう泣かないでぇえええ!
泣き叫ぶように言ったツナの言葉にヒバリンとアラリンが涙混じりの目で初めてツナを見上げた。

「ほんと…?」
「うそは、きらいだよっ」
「本当だから!ちゃんと二人が約束を守ってくれるならオレも約束守るから!」

約束の一つは確約された。あと一つ。
涙目でちろりと互いに視線を送り、ヒバリンとアラリンは畳み掛けるように潤んだ目でツナを見上げてだめ押しする。

「つなの血なら飲ませてくれるの?」
「じゃないと僕達生きて行けないよ…」

きゅううん。
二人の目と言葉にツナの心臓が妙な音を上げた。
なんだこの生きもの。可愛い。
凶悪だってみんな言ってたけど確かに凶悪的に可愛い。
こんな子達を退治するなんて皆酷い!

完全に二人にほだされたツナはどんと大きく胸を叩いて

「大丈夫だからね!オレちゃんと二人のお世話するからね!」

はっきりと言い切ったツナがだからもう泣く必要ないんだよとぎゅうぎゅう二人を抱き締める。
ぐすぐす、こわかったよぉ。ふぇええん
ツナの後ろで涙を拭きながらヒバリンとアラリンはちろりと互いに視線を合わせて

ちょろいな。

と吸血鬼の顔で笑いあった。


その後数日ほどは大人しく家でじっとしていてくれたのだが、ある日の夕食に

「つな…おなかすいた…」
「ずっと我慢してたんだよ?これ以上血を飲まなかったら僕達死んじゃうよ…」

お腹の上に乗っかってうるうるとツナを見上げてくるヒバリンと、隣にちょこんとすわり悲しげに目を伏せるアラリンにツナはついに自分の血を飲むことを許してしまった。

一人ずつ、腕から飲んでね?

その言葉を言い終える前にヒバリンが左の首筋に、アラリンが右側の首筋にちょこんと座りがっしりとうでを押さえつけてツナの顎に手をかける。
鮮やかな手つきでシャツも肌蹴させられたツナは冷や汗を垂らしながらヒバリンとアラリンを見比べた。

「え、あの…もしもし?」
「おなかすいた。順番待てないよ」
「そんなにたくさん飲まないから良いでしょ?ね?」

こてりと可愛く首を傾げて尋ねるヒバリンとアラリンに半ば流されるようにうなずくと二人同時に両側の首筋にちゅうううううううと噛み付き血を吸った。
小さな体なのに物凄い気負いで両側の首から一気に地を抜かれツナはぶるりと慣れない感覚に身体を震わせソファーの背もたれに倒れ掛かる。
こんなこと毎日されたら身体が持たないかもしれない。
ぼんやりと半端な覚悟で二人を引き取ってしまったのを後悔していたらツナよりも一回り大きな二つの影がツナの姿を覆った。

「…ワオ凄いね怪物使いって」
「血を飲んだらその分だけ成長するなんて驚いたよ」
「ちょっとなんであなたの方がそんなに大きいの?」
「単純に飲んだ量の違いでしょ?」

目の前には5歳くらいのヒバリン、アラリンでなく自分とほぼ同い年のヒバリンと、ヒバリンよりも軽く10は年上のアラリンが。
というかもはや本人なのかも怪しい位に大きくなっていた。

「……え、?」

訳が分からずぽかんとするツナにヒバリンとアラリンはにまりと笑い、一番身体の大きくなったアラリンがツナを抱っこし寝室へと運んでいく。
布団の上に下されてその後にヒバリンとアラリンまで布団に、ツナの上に乗りあげツナは貧血になりながらも何かの危険を感じて後ずさろうとする。
そんな微々たる動きはあっさりとヒバリンに封じられてしまったけれど。

「助けてくれてありがとね、怪物使いツナ」
「お蔭で命拾いしたうえに元の姿まで取り戻せたよ」

お礼に美味しく優しく食べてあげるね。

明らかに食用とは違う意味を含めたヒバリンとアラリンからツナが逃げ出せたかというと度合無理な話で。





「ごちそうさま、美味しかった」
「毎日こうやってお世話してくれるなら君の傍にいてあげるね」

大きくなる前の子供の様な人懐っこい笑みですり寄られて血をとったツナの首筋を舐める二人の吸血鬼にツナは力なく詐欺だと毒づいた。


2012 06 25 再録
 

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