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□君の面影、その半分
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「オレがいることでボンゴレの発展の妨げになるなら辞退してやるさ」

だけど、仲間の証を人を傷つけるための力だというのなら、これはオレが持って逝く。
宝石の台座がひしゃげ、割れて、粉々に壊れた7つの指輪を愛おしげに腕に抱きジョットは悲しげに笑う。
自分の土地の大切な人を守れるだけでよかった。そして、経緯はどうであれそれに賛同した元も彼に近しい彼らにもその力があった。
オレ達7人がこの土地のを守るなら何かそうだとわかるお揃いの物を身に着けよう。
子供の様にはしゃいでそういったジョットは次の日には旧友で腕のいい彫金師に作らせたという7つの揃いの指輪を抱えて笑っていた。お前たちに渡したいものがある。その言葉に不思議そうに集った6人の友は余りに個性的な性格をしていて、面白半分に色違いの7つの指輪にその個性を反映させた名前を付けた。

怒り狂ったお前の攻撃は息つく隙もない位強烈だから怒涛の嵐
例え血にまみれてもお前の笑顔は温かくて人を幸せにするのだから恵みの村雨
嫌だ怖いと泣きながらも家族を必死で守る一撃を秘めるお前は雷
どんな状況下にあっても決してくじけずに仲間を導くお前は晴天
優しいくせにそれを隠して人と迎合するのを嫌うお前は孤高の浮雲
全く持って掴みどころのないお前は幻影の霧

こんな感じでどうだろうか、かつて始まりの男が得意げにそういった時、年甲斐もなく性格を天候に例えられた彼らは渋い顔をしながらも別にいいんじゃねーのと納得した。彼の言葉にそれは良いでござるなと賛同した雨はならあなたはそんなオレ達の還る大空ででござるなと悪戯っぽく笑う。
指輪を受け取るだけ受け取って、指にはめるや否や興味なさげにそっぽを向き踵を返す浮雲も反論することはなかった。
そんなエンブレムのような意味合いで作られた指輪だった。その指輪がいつか自分たちが抱く仲間を守る矜持を示すものになれば嬉しいと思った。
だがある日、大きな戦いで命の終わりを悟って、それでも生きたい、守れないまま死にたくないと歯を食いしばった時、指輪から炎が立ち込めた。何をしたのかわからない。冷たい石から炎が立ち込める非現実なんて最初は信じることが出来なかった。しかし、呆然とする間にも7色の炎は各々の得意の武器に広がって。温かくも自身を傷つけない温度のそれはどこにそんな力があったのかと驚くほどの破壊力で今まで自分たちを追い詰めていた敵を薙ぎ払った。全てが終わった時、誰もが夢ではないのかと目の前の現実を受け入れられなかった。
奇跡の炎をともすボンゴレのボスと6人の幹部。圧倒的な力を見せつけた彼らを待っていたものはその力をねたんだ外部の暴動と、力の源とみなされた指輪を狙う力の反乱だった。
その魔の手が霧の男へと向けられたとき、彼は愛する恋人を失い壊れた。

行き場のない霧の男の憎悪と怒りは大空へと向かい、力を求めようとしない彼をお前は甘いと罵倒した。罵倒してもうあなたのやり方にはついて行けないと明確な拒絶を向け、彼はジョットの友人を嵌め、危機にさらし、ジョットから大空の証を奪いにかかった。
奇跡の炎を灯した時から狂い始めた何か。人を守るには十分過ぎるそれはまた、人を容易に傷つける力をも持ち合わせていて。
霧の男に賛同し、守ることを免罪符に傷つけ、発展することを選んだ家族は少しずつジョットの話を聞かなくなり、ジョットがボンゴレを去ると決めた時にはかつての人を守るための家族ではなく、ただ貪欲に繁栄を求める組織へと変わり果てようとしていた。
ただ守ることばかりに固執していたからこそ壊れたものを彼は知っている。それでも、ただ親友の証であれば、守りという誇りを示すものであればよかった指輪を用いて人を傷つけるところは見たくなかった。ジョットと彼らの間の友愛の情が穢されていくような気がした。
だから彼は壊すことを選んだ。仲間の証であった指輪を、守りの矜持を現した指輪を。自らの手で粉々に。
指輪の回収に一役かった孤高の雲はその様を澄んだ碧い瞳でじっと見ていた。頼りのない背中を向けて、肩を震わせながらかつて仲間に嬉しそうに送った指輪を自ら壊す大空を。

「言ったところでもう意味はないけど…本当によかったの?」

親友とやらの証だったんでしょ?
言葉の意味を理解しているようでいまいちわからないと言った様子を見せながらもアラウディは問う。
かつてジョットが持ってきた指輪には何処から見つけてきたのか、不思議な色の石が埋め込まれていた。恐らく水晶の大空の石、赤い石、青い石、黄色の石、緑の石、紫の石、紺の石。何の偶然か、噴出した炎と同じ色をしていた石。それが今、見る影もなくぼろぼろに砕け散っている。

「あぁ。あいつらがこれを使って人を傷つけなければならないようになるくらいなら…無くなった方がましだ」

思い出がまだ綺麗なうちに、穢されないうちにオレが一緒に持って逝く。

「元々指輪がなくたってあいつらは強かった。いくらこれが強大な力の源だったとしても、指輪一つなくなったところであいつらはそう簡単に負けはしないさ」
「そういう意味じゃなくって」

彼ら、きっと悲しむよ。
我を失っている霧はわからないけれど、少なくとも残りの5人は指輪の意味を今でも理解しているし、もう一つ彼から送られた時計と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に大事にしていた。
どれだけ命の危険にさらされても永久の友情を誓うと書かれた時計を見れば何としても生きて帰ろうと思うし、
どんな勝ち目のないと戦いだったとしても右手中指にはまった指輪を見ると不思議と恐怖薄らぐ。
昔、ジョットの幼馴染である嵐の男は煙草をふかしながらそんなことを言っていた。
そんなGをかつては身につけるものひとつでそうも変わるのかとアラウディは訝しげに見ていたが、締め付けられる感触のなくなった中指を見て、確かに思うところはあった。
装飾をあまり好まないアラウディにとっても不思議と違和感を感じない位に馴染んでいたそれ。いざそれが抜き取られると何もないはずの中指に違和感を覚えて、粉々に砕けてもう収まることのない指輪を見ると何とも言えない喪失感を覚えた。
壊れた指輪とともに日本へ去るというのならジョットの心の中で彼らとの日々はおそらく生き続けていく。だけど、他の彼らはどうだろうか。

「べつに興味はないけど、…このまま時が過ぎればきっと君だけの思い出になって風化するよ。」

時計も十分にジョットの面影を残してはいるけども、やはりお揃いの時計と此処の個性がある指輪を比べたら最初の彼からの贈り物で、6人の仲間一人一人のことを考えて作られた指輪には及ばないだろう。
狂う前のスペードでさえも指輪を壊すことだけはしなかった。
こんなものの為にエレナは死んだというのか!
そう言って激情のままに指輪を壊そうとして、結局肩を震わせて、嗚咽を咬み殺して指輪を壊すのを踏みとどまっていたのだから。

「君が愛して作ったボンゴレだって…このまま時が進むときっと二度と元のようには戻らないよ」

君がいなくなって、君を慕った彼らもいなくなって。君の面影がほとんど残らない組織が家族に戻ることなんて永遠に来ない。それでも君は行くんだね。
淡々とそう告げるアラウディにジョットはならどうすればよかったのだと擦れた声を漏らす。今まで見せなかった涙を悔しげに溢れさせて。

「…バカな子」

君の仲間とやらは何のためにいるのさ。
呆れた声で空気を震わせてアラウディはジョットの手の中の指輪のかけらをいくつか拾い上げる。土台はもうぼろぼろで使えそうにない。それでも7色の石は半分に割れただけで済んでいた。

「あ、らうでぃ…?」

全ての石を半分ずつ掌に乗せて指先で転がすのをジョットは不思議そうに見つめる。涙にぬれる暁からふんと顔をそらせて、君の場所だった此処がただ変わるのは不快だからねと零した後堂々とした眼差しでもう一度振り返った。

「僕が半分、預かっておいてあげる」

組織が家族に戻ることなく死滅するときは責任もって返しに行くよ。
その時まで待っても遅くはないでしょ?あっさりとそういってのけるアラウディにジョットは目を見開いて彼のアイスブルーの瞳を見上げた。そんなジョットに不敵に笑って、アラウディはあぁ、でもと言葉を続ける。

「このままじゃ僕もいつか守護者を降格されるだろうから…これ、没収されてしまうかな?」

どうしようかな。ちらりとわざとらしく見下ろしくアラウディにジョットの中である記憶がよみがえる。脳裏に浮かぶのはあの時の夜の話。少しずつ不穏な流れに向かっていく家族、それを止められないでいる不安をたまたま居合わせたアラウディに吐露した。
もしもオレが後戻りできなくなった時、誰かオレを止めてくれる人はいるだろうか。
家族の長であるジョットが家族を間違えた方向に導きそうになった時、止めることが出来る人はいないだろうか。
門外顧問。あの時そんな思いを吐露していた時にふと思いついた役職の名前。
その話をした時アラウディはそんな面倒な役柄誰が好んでやるのさと興味なさげにしていたがもしかして、彼は。

「ねぇジョット。何かちょうどいい役どころ知らない?誰にも文句を言わせないで、これを持っていられる、そんな役」

出来れば群れに干渉しなくていいもので。
滅多に見ない、悪戯っ子の微笑みを見せてそう尋ねたアラウディは、そうして静かに彼の言葉を待った。守護者として戦うことを望まれたとき以来一度も聞くことのなかったジョットの命令(こんがん)を。

ジョットが日本へと渡った後アラウディはまずタルボのもとへと訪れた。砕け散った指輪を直すために。

「出来なくはないがのぉ。欠片が半分しかない以上性能も半分になっちまうぞ?」
「構わないよ。別にその指輪に戦力を求めているわけじゃないからね」

ただ彼との繋がりが残るのならそれで良い。らしくもない台詞を飲み込んで、出来ないのともう一度同じ質問を繰り返す。

「誰が出来ないと言った、若造よ」

嘗めるでないぞ。そう言ってタルボは不敵に笑いアラウディから石を受け取った。彫金師の掌に包まれた7色の石は再び取り戻せる絆に喜び、輝いているように見えた。
結果として指輪だった石はまたリングとして守護者の手に戻ることが出来た。もっとも多少の欠陥付きはまぬかれることが出来なかったが。
最初来上がったそれをアラウディがタルボの目の前で指に填めて普段通りに炎をともすと指事真っ二つに割れたのだ。

ちと強度が足りなかったかのぉ。流石にこれは填められないんだけど。強度を取ると炎が半分ほど出にくくなるがいいか?僕は構わないよ。

一悶着ありながらも石もろとも熱に強い銀でコーティングして、折角綺麗に割れたしとぱかりと割れた指輪を着脱可能になるように其々割れ目を加工して、ジョットの思想を受け継ぐ守護者を追い出して次代のボスになった2代目のボスにその半分を預けることにした。残りは信頼のおける部下を7人連れてから取に来いと言葉を残して。ジョットと同じ条件をそろえないと指輪の完成をできなくしたのはこれから好き勝手するのだろうボンゴレへのささやかな嫌がらせだ。

虹のような七色の石。その半分は姿を変え遠くからも大空を見守り続けた孤高の浮雲の手に委ねられ、残り半分はいつか何処かで友と愛した家族の再会を信じた始まりの大空の腕で眠ることになる。


「むやみに人を傷つけたために倒されることを 後悔しろ!!」


長い長い時を超え、ぼろぼろになりながらもただ仲間を守るために何度でも立ち上がる小さな大空が現れるその時まで。
 

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