story

□赤い夕日と長い影
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ぺら、ぺらり…かさ。

ぺら、ぺらり…かさ。



応接室に書類を捲る音だけが聞こえていた。
時たま紙の上をペンが走ったりガサガサと引出から何かを探したりとする音がするも、執務用の机に積まれるだけ積まれた書類は目測でざっと100は超えているだろう。

応接室の主はげんなりするほどの膨大な書類を眉一つ動かさずに黙々と片付けていく。
そんな雲雀を客人用のソファーに座りながらほ綱吉はへーっと出されたアイスココアをちびちびと眺めながら飲んでいた。

気配で綱吉の様子を伺っていた雲雀は思わず吹き出しそうになっていたが。








[ 赤い夕日と長い影 ]



休日でも相も変わらずに朝早くから登校し書類を片付け始めて早数時間、陽は頂点を降り始めていて。
ずっと椅子に縫い付いて居たため、どんなに座り心地の良いと言っても体の節々は少し動かすだけで悲鳴を上げた。


「……ッ、随分と大人しくしてたじゃない」

その内に飽きて帰ると思ってたよ。伸びをしてパキポキと関節を鳴らして雲雀は笑った。
書類整理のため下を向いていた雲雀の顔が自分に向いて、途端に嬉しさで綱吉の頬が仄かに紅くなった。
まるでかまってもらえるのが嬉しくてたまらないと云った子犬のような反応が、愛おしくて可愛らしくて頬が緩まずには居られない。


「な、もう!帰る訳ないじゃないですか〜雲雀さんヒドイ〜〜!」
「ごめん、拗ねないでよ」
「拗ねてません〜」


プイッと口を尖らせて頬を膨らます姿に頬張ったハムスターを連想させられて、耐えきれずに雲雀は机に突っ伏して笑った。
そらーもう、肩がぶっるぶる震えるほどに。


「えっちょ、何笑ってんですか!然も大爆笑!?肩すっげえ震えてるし!なぁっいつまで笑ってんですかぁ!」
「…ッく、あはっ、はははっ、…だ、て…ふ、くく…っ」
「もー知りません知りませんから。家に帰りますね〜」
「其れはダメ」


ピタッと笑いを止めて出て行こうとした身体を包むように抱き締められて、綱吉はにんまりと笑顔になる。


「えへへ、雲雀の匂い〜」
「ワオ!、全部計算かい?」
「まさか!雲雀さん相手にそんなコト出来る訳ないじゃないですかー。だいたい俺にそんな頭がないことぐらい知ってるくせに!」
「うん」
「うわっ即答された…!ちょっとは考える素振りくらいして下さいよ!!」
「無理だね。僕は自分に素直だから」


前髪を退けられチュッと額にキスを落とされて綱吉はいよいよ茹で蛸寸前までボボッと赤くなった。


「ぅ、うわ…ッ」
「うん、やっぱり帰っちゃダメ。寧ろ帰せない帰さない」
「なっ…!だから何でそー言う事を昼間っから!し、しかも此処、学校…!」
「ん?どうして?別に僕は疚しい意味で言ったんじゃないんだけどな?」
「うぐ、ぐ…う、ああもう!ニヤニヤしないで下さいよ!」
「期待した?」
「ち、ちがいますぅ〜!雲雀が耳元で囁くからですぅ〜〜!」
「本当に?」
「ぎゃぁあ!ッだから耳元で囁かないで下さい〜〜〜!」


きゃいきゃいとじゃれ合う2人を見た草壁ならじゃれ合う2人と同じ空間に居たならこう言うだろう。
「委員長、後ろの書類…明日までなんですが……」
「今日中に仕上げるから問題ないよ」






居た。




















かさり、と最後の書類を仕上げ雲雀は息を吐いた。
ちろりとソファーを見れば逆立ちながらもふわふわとした栗色の髪はソファーの縁に乗っかっていた。
幸せそうな顔をしてよく寝ている。

そしてチラッと壁に掛かる時計を見る。
時刻は八時になりかけていて、1日の半分以上を学校で過ごしたことを教えていた。


「まぁ、あの子なりに頑張ったしね」


つい二時間ほど前までは綱吉も起きていた。
何か手伝えることはないかと聞かれメモとバインダーの付いたファイルを渡し、書類の整理を頼んだのだ。
四苦八苦しながらも「出来ました!」と嬉しそうに達成感に満ち足りた笑顔で言われ、其れまで疲れていたのも吹っ飛んだ。

お陰で日付が代わってしまう前に、比較的早い時間で終わらせることが出来たのだ。

愛しい子供は自分を待っている間、普段使わない頭を使って疲れたのか、直ぐに眠ってしまったが。


「まったく、無防備ったらないね」


ムニャムニャ、えへへ〜。

一体どんな夢を見ているのか、緩みに緩んだ寝顔は幸せそうで、ふっくらとした少し桃色の頬に思わず触れたくなって。

ぷにぷに、押してみた。


「柔らかい…」


なに、この柔らかさ!? ああもう、ずっと触っていたい…!食べちゃいたい…!

少々あぶない思考を巡らせながらもふくふくモチモチの頬を思う存分堪能して雲雀は綱吉を背負うと応接室を後にした。

綱吉が目を覚ましたのはだいぶ歩いてからだった。


「…はへ?……雲雀、…さん?」
「やあ、起こしちゃったかな」


一定間隔の揺れが心地よくてもう少し寝てたかったけど、違和感を感じて目を覚ませば、気が付いたら雲雀さんにおんぶされていた。

うわ〜雲雀さん以外と背中広い〜しっかりしてる〜肩細っ…じゃなくて!


「あわわ…!ひ、雲雀さんっ下ろして下さい〜〜〜!」


は、恥ずかしすぎる…ッ!


「どうして?もう直ぐでキミの家に着くじゃない」
「だからですよ! 母さんやリボーンに見られたら、寧ろチビ共に見られたらからかいの的ですよー!」
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