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□burning lonely boy
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オレの声が聞こえていないのか…?!
大きく振られて一太刀をかわした時、螢惑は反動で、炎上している壁に勢いよく突っ込んだ。
「螢惑!!」
慌てて駆け寄ろうとするが、刀を突きつけられ動きを牽制された。
「来ル……ナ…」
「…螢惑?」
「オレ、ニ……近ヅク……ナ…」
「なっオイけ、イ…?!」
ほんの一瞬、前髪の隙間から螢惑の眼が見えた。
とてもじゃないが、正気の眼には見えなかった。
誰かに操られている気配は無い。
「まさか…」
コイツは今無意識で戦っているのか…?!
螢惑の身体に紅き呪印が絡みついた。焔血化粧の発動だ。
「止めろ!その状態で…貴様死ぬつもりなのか?!」
この状態でも戦おうとする螢惑に一つ心当たりがあった。
樹海へ向かう途中、風に乗って何かが飛んできた。
所々が少しこげている布切れだった。手触りと言い、模様と言い昔この布、服を度々眼にした気がする。
あれは、確か無明歳刑流の…父上のお付のものが着ていたものだ。
まさか、オレが言ったあの後も刺客を送り続けていたのか…?!それとも、監視を続けてコンディション最悪の日を狙われたと言うのか…
とにかく、螢惑の動きを封じなくては…本当に身体が持たないというか、確実に壊れる。
「螢惑、すまないが少しだけ我慢してくれ。」
ある程度の距離をとり、舞曲水から水破七封龍の構えを取った。
出現した七匹の龍を一つにまとめ、一匹の巨大な龍を生み出した。
螢惑の動きが止まった。
それと同時に水龍を螢惑に向けて放った。
「……しん、れい?」
螢惑の声を掻き消し、水龍は頭から螢惑を飲み込んだ。
その瞬間、命令を下し、龍の形から厚く巨大な泡の状態に変形させた。
水泡の中に閉じ込められた螢惑の身体が内側で一つ弾んだ。
体力の限界だったのか、それともショックによるものなのかは定かではないが、螢惑は気絶していた。
「あのタイミングで意識を取り戻すとは…」
きっと次に目覚めたときにはさらに水嫌いになっているのだろう。勿論、攻撃を仕掛けたオレも。
…今はそんなことを考えている場合じゃないな。
一先ず部屋へ連れて行き様子を見よう。
放火のことを聞くのはその後だ。
□■□■
「辰伶 ただ今戻りました。」
「入って来い。」
きたときとは違って、太白は一人、囲碁をしていた。(然程大差は無いが。)
「……熒惑を見つけたんだな。」
「はい。ですが、見つけた時、高熱で酷く衰弱しており歩くことすら困難な様子だったので、今は私の部屋にて休ませております。」
「そうか。ご苦労だったな。」
「放火の件は…また後日でもよろしいですか?」
「あぁ。まずは熒惑の回復が先だからな。吹雪様にはオレから上手く言っておくさ。」
「すまないな。」
「気にするな。それよりも、熒惑は今お前の部屋にいるのだろう?」
「?はい。そうですが…」
「高熱を出しているのだろう?」
「はい。」
「ならば早く部屋へ戻った方がいい。さっきから焦げ臭いぞ?お前の部屋の方。」
「?!し、失礼しました!!」
無礼承知で足で扉を閉めて部屋まで走った。
布団に寝かせたときは素手で触っても安全なぐらい冷めて(?)いたはず。
オレとしたことがっやはり普通の枕よりも水枕を出してくるべきだった!それと確か熱を出したときは頭を冷やすべきだったはず!それに生姜湯だったか?風邪に効くのは……………
だぁぁぁぁっ!!この際部屋が消し炭になっても構わないから無事でいてくれ熒惑!!
この日、オレは初めて通行人を薙ぎ飛ばし、廊下を全力疾走した。