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□拍手御礼に使った文と突発SS
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今僕は君に嘘をついたわけだけど、






「ねぇ、今日は何の日か分かる?」

渡された名簿とホチキスを片手にうつらうつらと舟を漕いでいたらびし、と消しゴムが額にめり込み、ぷるぷるとその痛みにうずくまっていた時に振ってきたヒバリさんの言葉。
行動では居眠りするな、さっさと起きて作業しろって雄弁に語ってるくせに、その口から出てきた言葉は何とも平和だ。

えーと、と考えるそぶりをしながらちらりと時計、そしてカレンダーを横目に見る。

遅寝、遅起きの習慣がいい具合に寝付いてきた春休み中盤、朝8時にたたき起されて有無を言わせずデートしようと学校に呼び出されて、ドキドキしながら私服で来てみれば案の定、入学式のための名簿作成を手伝えとお約束過ぎる展開を目の当たりにして少しがっかりしたっけな。途中30分ほど意識がさよーならしたそんな朝。なんだかんだそれなりにはオレもちゃんと仕事を手伝っていたらしく、後数分足らずでお昼の時間だった。

そして、本来の目的、ヒバリさんの質問に答えるために今度はカレンダーを見る。春休み中盤、年度の入れ替え、一年の4分の1突入、…つまり4月1日だった。

「4月1日…あ、」

「やっと気付いたかい?」

「はい。ヒバリさんも興味あったんですね、エイプリルフール。」

「まぁ、別に興味はないけど、折角純粋でうまくだまされてくれそうな君がいるわけだし、今日は僕もこの大衆向けのお遊びに付き合ってみようかな、と。」

「…はぁ、」

「だけど、むやみにに君を傷つけてしまうのは本意じゃないから、ちょっと趣向を変えてみようと思うんだ。」

「…はぁ、それで、どうするつもりなんですか?」

「今から君に言うことは全部うそなわけだけど、」

「…はい…」

一体何のつもりか嘘だと前置きされてヒバリは少しばかりうーん、と思考を巡らせる。いうくら嘘だとわかっていてもヒバリさんが何を言うかこれっぽっちも分からない以上、やっぱり身構えてしまうのは仕方がないことだと思う。
だって何を言うにも凄い真面目に言ってくるからどんなぶっ飛んだ内容でもついつい本気に思っちゃうんだ。

ごくり、とヒバリさんの言葉を待ちかたずをのんだその音と、カシン、と短針が一周回って長針が一つ進むその音が綺麗に重なった。

「綱吉、君って本当に可愛らしいよね。」

「…は、い…?」

ふんわり、と今まで見せてもくれなかった、寧ろ出来るとも思っていなかった優しい微笑みをたたえて彼は口を開く。そこから出る言葉を理解できず脳みそは一瞬フリーズした。

「ちまちまちょこちょこと何かをするさまは本当に愛らしくて、例え失敗ばかりでも見ていて飽きることはないよ。寧ろ、もっと見ていたいとさえ思うくらい。

それにその小さな体をこの腕に抱いた時に感じる温もりったら、本当に心地よくて、君が嬉しそうに擦りよってくる度に髪の毛がふわふわ頬に擦れて…くすぐったいけど、とても気持ちいいんだ。」

うっとりと、まるでお泊まりをした日の夜や、二人っきりの甘い雰囲気の時にするあれの時みたいな表情を浮かべて彼は今までそんな素振りすら見せなかった事ばかりを言う。
混乱と共に、オレの心は静かに止まっていく気がした。

だって、考えてみたら、オレとヒバリさんがこうやって一緒にいるきっかけを考えてみたら、今目の前で紡がれる言葉ほど残酷なものなんて、ないんだ。

ヒバリさんが好きで好きで、男だけど、怖いけど、咬み殺されてばっかりだけど、どうしても好きで好きで我慢できなくなったある日、爆発寸前の心を携えてオレはヒバリさんに好きだと言いに行った。
OKもらえるなんて夢にも思わなくて、とりあえずトンファー一発分の覚悟くらいはと思えてずっと身構えていた時にじゃあ、僕と付き合う?なんて小首を傾げて返事を質問で返された時は本当に夢なのかほっぺたをつねって確かめたくらいだ。それくらい目の前でもらった返事が信じられなくて、嬉しかったんだ。
その後、付き合い始めてからもヒバリさんはなにも言ってくることはなかったけど、寧ろ相変わらずパシられるし、ちっちゃな校則違反でも容赦なくぶんなぐられるけど、応接室のソファにちょーんっと据わっていても怒られない、寧ろココアでいい?ケーキ食べる?なんて行ってくれるし、一緒に斜め横を歩いて家に帰っても何も言わない、家について別れ際にはまたね、なんて言ってくれるヒバリさんに好きだっていう前よりさらに好きになって本当にどうしようなんて思っていたけど、

今は、彼からの言葉がとても悲しい。

オレの笑みが少しだけひきつったのに気づいているのか、いないのか、彼の甘言は留まる事を知らず続く。

綱吉は可愛い、愛しい、食べてしまいたい、ずっとぎゅってしていたい、ぱたんと何もないところで転ぶ様が可愛い、赤点だらけのテストを見てあぁー…と落胆する顔が愛しいい、涎を垂らしてうつらうつらするその顔をずっと見ていたい、その涎をつい、と舐めてみたい、ちょこちょこ後ろをついてくるさまがあまりにも可愛くてずっと家に帰らず歩き続けたい、買ってきたケーキをしまりのない顔で頬張る様が愛らしくてそのケーキごと君を食べてみたい…。

今まで好きとすら言ってくれたことのない彼がまるで人が変わったかのようにずっとオレに愛に近い甘い言葉をささやき続けている。
嘘と前置いたその口で。

「不細工な顔して泣いていたとしても、その顔を見ればたぶん数秒で勃つ自信がある………僕はね、そんな君が、とてもとても大好きだよ。」

そして、彼が今まで言ってくれたことのなかった好きを、大好きというおまけつきで言ってくれた時、どうしようもなく心臓がずきずきして、泣きたくなった。
くすりと笑って頬をつねられた。深海のように暗くて綺麗な色をした雲雀さんの瞳に映ったオレは今まさに彼が言ったように泣きそうで、でも笑ってる不細工な顔をしていた。

きっとこれ以上ヒバリさんが何かを言ったらオレはきっとかっこわるくも本当に泣いてしまう。
いつもならオレを真っ赤にしてふわふわ飛んで行ってしまいそうな嬉しい言葉たちがオレを泣く一歩手前まで追い詰めるんだ。

「…えへ、いつもへの口して何も言わないヒバリさんがそんなこと言ってくれるなんて。オレ、とても嬉しいです。」

いつもの笑顔を作ってヒバリさんの言葉にそう返した時、オレの頭中でぎぎぎ、と不自然な音が響いた気がした。身体の、心のあちこちが乾いてしまった気がした。
とりあえず泣くなら水があって、ヒバリさんがいないところで。
あ、そろそろお昼ですし、オレ何か買ってきますね!と努めて明るく言って応接室を飛びだそうと踵を返したその時、がこん、なんて音がしてトンファーが顔のすぐ横の位置に当たるところに刺さって、ぎゅううとヒバリさんに抱き締められて捕まった。

「酷い顔。今にも泣きそうだね。」

「…なにいってるんです、か。気のせいですよ。」

「本当?目の味がいつもの違って塩っ辛いけど?」

「…ひぃ、そんなところ舐めないでくださいよ。」

ソファーに抱きとめられたままボスんと座り込んで、ぎゅうぎゅう、すりすり、あむあむ、ちゅぅ。とヒバリさんはいつになくオレに触れて来る。途中明らかに噛まれたけど、まぁ気にしない。でも、それすらも嘘なんじゃないかってまた泣きたくなってじたばたと身を捩ると、ヒバリさんはそう言えば、と思い出したように言葉を紡ぐ。

「ねぇ。知ってる?エイプリルフールには期限があるのって。」

「…き、げん?」

「うん。期限。4月1日は馬鹿に嘘をついてもいい日だって言うらしいけど、その日中じゃあないみたい、正午までなんだって。」

「…しょう…ご…?」

促されるままに後ろの時計を振りむいてみてみると、もう12時を回ってから随分たっていた。

あれ、ちょっとまて。
ヒバリさんは嘘だと前置きしてずっと愛の言葉をささやいていたわけだけど、でも、たぶん、オレが爆弾発言を待機して唾を五訓したときにはすでにAmがPmになってた気がするんだけど、ちょ、あの…。

「ねぇ、綱吉。」

ぷちぷちと前開きのシャツのボタンをはずして、ちゅう、と色気も何もない、貧相な鎖骨にキスをして彼はうっそりと微笑んだ。

「僕は、今君に嘘をついたわけだけど、どこまでが嘘だったと思う?」








fin



ウソだろと言いたいくらいに乱文ですみませっ…!
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