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□与えるのは二者択一ですらない何か。
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「うわぁ…。でかい…!」
「ヒバリ、綱吉連れて先に上がってて。僕、飲み物入れてくる」
「うん」

広大な屋敷に思わずあたりを見回す綱吉にアラウディが目を細め、ヒバリへと視線をよこす。
アラウディの意図を察したヒバリはにっと笑い、先に奥の間へと消えていった。
扉をくぐれば、屋敷の中は本当に幻想的な世界の広がりだった。
ハロウィン使用に飾りつけてあるのか、全体的に暗めの屋敷に、吊り上げられたジャック・オ・ランタンがぽつぽつと光り、中の様子をかすかに教えてくれる。
光の灯されたところには蝙蝠やかわいらしいお化けの飾りが吊りさげられていたり、大きなキャンディーや砂糖菓子が無造作に浮かんでいたり、部屋のいたるところに配置されていた。

「手、しっかりつかんでて。足元暗いから」
「あ、はい…」

綱吉の手を引いてゆっくりとアラウディも屋敷の奥へと進んでいく。
歩くたびに、ぽ、ぽ、とジャック・オ・ランタンに光りが灯り、思わず綱吉は見惚れてしまった。
何度か角を曲がってようやくついた重厚な扉に綱吉は思わず息を吐く。
通された部屋は相変わらずうずぐらかったが、玄関先よりも物が明瞭に見えた。
可愛らしい形の椅子に座るとアラウディはろうそくに灯をともす。
どうやったのか知らないが一つに灯をともすと周りのろうそくにも次々と火が灯り、部屋が一気に暖かな光に包まれた。

「…す、ごい…」

あたりはお菓子とさまざまな表情で彩られたかぼちゃで埋め尽くされていた。
机の上の籠も沢山のクッキーやチョコレート、キャンディーであふれかえっている。
ソファーにも可愛いハロウィン使用のぬいぐるみが無造作に散らばり、窓際の棚には大きなデコレーションケーキが飾られていた。
小さな種火しかない暖炉の周りにもかぼちゃの飾りがなされてあり、すごい力の入れようだなと綱吉は部屋をもう一度ぐるりと見回した。

「綱吉、あーん」

包み紙を開けて、真っ赤なキャンディーを取り出したアラウディはそれを指でつまみ、真っ直ぐに綱吉の口元へともっってくる。
思わず口を開け、飴を口に含むと甘酸っぱいミックスベリーの味が口の中に広がった。

「お菓子がいっぱい…これ全部二人で食べてるんですか?お父さんとお母さんは?」
「父親と母親?そんなのいないよ。ここは僕とヒバリだけの世界だもの」
「そっ、か…。さみしくないの?」
「人が多いのは好まないんだ。綱吉は別だけどね」

そういって背伸びしてちゅ、と額に口づけるアラウディ。
それを擽ったそうに甘受していると、ヒバリがちょっと何してるのさと文句をこぼしながら入ってきた。

「勝手に抜け駆けしないでよ。人を使っておいて」
「飲み物入れるのにちんたらしてるお前が悪いよ。それで、僕の分も持って来たの?」
「ふん、コーヒーでいいんでしょ」
「ちゃんと豆は挽いたよね。挽きたてじゃないとやだよ」
「貴方がそんなこと言うから時間がかかるんでしょ」
「お前が愚図なだけだよ」

おおよそ小さな子供がする会話じゃないと二人の会話を眺めていると、綱吉の視線に気づいたヒバリがごめんね、とティーカップを差し出す。
薄茶色の乳白色の液体がオレンジの光を受けながらゆらゆらと揺れていた。

「ロイヤルミルクティーを入れてみたよ。甘いの好き?」
「うん、好きなのが出てきて驚いたくらい…!」
「良かった」

ふっと嬉しそうに微笑み、ヒバリは綱吉のすぐ隣の椅子を陣撮る。
それを大人げないなとため息交じりに見詰めながらアラウディは綱吉の正面の椅子に腰かけた。

「えーと、ヒバリくん…は何を入れたの…?」
「ココナッツミルクを温めたんだ。甘いものが飲みたかったから」
「そっかー」

隣で静かにコーヒーを飲み始めるアラウディを見てあわてて綱吉も一口目を口に含む。
一瞬妙な苦味が舌を刺激したがすぐにミルクと茶葉の甘みが口の中に広がった。

「隠し味にシナモンスティックのシロップを少しだけ入れてみたよ。結構合うんだよね」
「…ホントだ…!おいしい…」
「気に入ってくれてうれしいよ」
「ねぇ綱吉、こっちのクッキーも食べてごらんよ。紅茶に合うんだよ」
「あ、ありがとう!」

アラウディから受け取ったクッキーを紅茶に浸して一口かじる。
甘さが控えめなクッキーと紅茶の甘みが絶妙なバランスで溶けあい、綱吉の顔は思わず綻ぶ。もう一つ食べてみなよ。
アラウディに差し出されるがままにぱくりぱくりとクッキーを平らげ、かごの中のお菓子の山が一回りほど小さくなった。

「うーおなかいっぱい」
「綱吉は少食だね。まだたくさんあるのに」
「村でもたくさんお菓子貰って食べちゃって…」
「ふーん」
「そういえばお迎え来たときここ分かるのかな…。オレはヒバリくんたちに連れてきてもらったけど…」
「そんな難しい場所じゃないから大丈夫なんじゃないかな」
「そっか!それならよかった!風さんが迎えに来れなかったら大変だもん!」

風と綱吉が村の青年の名前を出したとき、一瞬アラウディとヒバリの顔がこわばるが、綱吉が気づくことはなかった。
ヒバリが席から降りて、窓のほうへと歩み寄る。
カーテンの隙間の外の景色は何も見えない。真夜中で真っ暗だから当然だろう。
少し考えたそぶりをしてヒバリはぱちんと指を一つ慣らす。穏やかだった窓の向こうはたちまちのうちに大嵐になった。
ヒバリの一連の動きを見ていたアラウディはふぃーとくつろぐ綱吉に向き直る。

「ねぇ、綱吉。今日は泊まっていったらどうだい?」
「え、でも…」
「外は大雨だよ。この調子じゃ風ってやつもこっちにはこれないんじゃないかな?天気が荒れると視界が悪くなるし」
「え、雨?!いつの間に…みんな無事に帰れたのかな…」
「まだ降り出したばっかり見たいだから大丈夫でしょ。問題は君だよ綱吉。僕たちとしてはこんな雨の中君を外に出したくないんだ」
「風邪ひいてしまうしね。僕たちのうちはお部屋がいっぱいあるよ?夜が怖いなら一緒に寝てあげる。だから今日は泊まっていきなよ」

ねぇねぇ、泊まっていってよ。
まるで友達の帰りを惜しむ子供の様に綱吉を引き留めようとする雲雀とアラウディに綱吉は苦笑交じりにじゃあ泊めてもらうね、とうなずいた。
こんなに自分のことをもてなして泊まっていってもいいとまで言ってくれるのだ。
あまり邪険にするのもなんだか気が引けてしまう。
綱吉がうなずいたと同時に二人の顔がぱっと明るくなる。

決まりだね、案内してあげるよ。
口々にそういったヒバリとアラウディは屋敷に入ったときと同じように綱吉の手を引いて部屋を出る。
自分で歩けるよとやんわりと言ってみるが、だめだめ。足元危ないよと離してはもらえなかった。
少しばかりくすぐったい気分になったが、まだ自分よりも小さな子供なのに気遣いがしっかりしているんだなーと綱吉は感心した。

案内された先はどちらかの寝室なのだろうか、薄紫の天釜が付いたキングサイズのベッドだった。
ベッドの大きさを見るともしかしたら二人で眠ってるのかもしれない。
ダイニングのソファーと同様こちらにもかわいらしいぬいぐるみとかぼちゃの置物がちらばっていた。

「綱吉はここで寝るんだよ」
「僕も一緒に寝てあげるから怖くないよ」
「お前は寝相悪いんだから落とすんじゃないよ。ヒバリ」
「大きなお世話だよ、アラウディ」

そうそう喧嘩をはじめそうな二人を綱吉はまぁまぁとなだめておずおずとベッドに横たわる。
スプリングが綱吉の体重を受けてキシ、と小さく音を立てる。
人のベッドだと遠慮しているのか、恐る恐ると枕に頭を沈めてみると、ふか、とゆっくりと体がベッドに沈む。
思わず目をつむり、もう一度開けてみる。
見上げた先にはヒバリとアラウディが満足げに笑いながら自分を見下ろしていた。

「お休み、綱吉」
「お休み、良い夢が見れるといいね」

アラウディは額に、ヒバリはまぶたにそっとキスを落とし、そのまま二人は綱吉の両脇で小さく丸まり眠りに落ちた。
アラウディとヒバリが寝た直後、なぜだかどっと眠気に襲われた綱吉はそのまま眠りについた二人に引きずられるように夢の世界へと落ちて行った。
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