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□交わらない思惑、更衣室の攻防
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「…ワオ」
「み、見ないでくださいっ!」

ただでさえ雲雀の嫌がらせに真っ赤になっていたのにさらに耳まで赤くなり綱吉はさらけ出された胸を必死に隠そうとする。だがどれだけ腕を下ろそうともがいても片手で軽々と抑え込まれてしまいただ不恰好に身体をよじることになるだけだ。そんな綱吉を本当に面白そうに眺めながらもあぁ、でもちゃんと脂肪分は入ってるんだねとのんきなことを言いながら空いた手で乳房をすっぽりと包みこみふにふにと揉んでくる。

「うっ…うくっ…触らないでくださいよっ…!」

快感というよりもくすぐったさに涙目になっている綱吉に雲雀はおや、と首を傾げる。比喩でなく小さな木の実のような薄いピンクの乳首をきゅっと掴んでみると痛い!と色気のない声を上げた。
ふぅん。少し触っただけで綱吉がいかに自分の予想を裏切ってお綺麗な存在でいるのかを察した雲雀はにぃ、とルージュの引かれた赤い唇を撓めて笑う。それに嫌な予感を感じた綱吉が何のつもりですかとかすれた小さな声で問うと雲雀はおもむろに自分のブラをたくし上げぶるんと窮屈そうにおさまっていた乳房を顕わにさせた。

「んなぁああ!!!なんで出すんですか!露出狂ですか?!」
「まさか。不可抗力とはいえ君だけがそのひんにゅ…慎ましい胸をさらす事になってしまったのは余りにも哀れに思えてね。僕も出してあげようと思ったのさ」
「いらないお世話です」
「先輩の好意はしっかりと受け取るものだよ」

ちょうどこの場にいるのは二人きり、胸を割って話すのも悪くないと思わないかい?
不敵に笑う彼女にそれを言うなら腹を割ってですよね。何て言葉が出かけて思わず飲み込む。入社試験をパスするために死んだ気になって身に着けた一般常識。それに照らし合わせれば明らかに間違えた使い方だが、どうせ嫌味にわざと言い間違えて来た雲雀に綱吉はすでに突っ込む気力など残っていない。言ったところで倍返しが来るに決まっているのだから。

「大体、ヒバリさんにアラウディさんの何がわかるんですか…大して面識ないくせに。…なんだかんだあなたが一番人を見かけで判断してますよね」
「あぁ、あれ?顔と一物だけの男だったよ」

さらりと言った彼女の言葉に思考が追い付かない。顔は分かる。文字通りに解釈してもいいだろう。確かにアラウディは綺麗な顔つきをしているから。それなら一物ってなんだ。一物。放心しながらもうぐるぐる彼女の意味を理解しようと頭を回転させていると横から耳打ちで男性器名を露骨に出されまた目に見える狼狽を見せる。え、ちょっとまさか。さっき付き合ってないって言ったくせに。
くすくすと彼女が笑う。一人先輩と憧れの上司の濡れ場を妄想して半分ほど意識がお出かけしていたが子馬鹿にした笑いを見て今の自分の反応がただの空回りの杞憂だったのだと思い知る。
予想通りの反応だけど、その通り過ぎて面白い。そんな思いがひしひしと伝わってくる。どうせ自分は単純だよ。良い子の模範解答な反応しかできないよ。そう反論する代わりにきゅっと唇をかみしめて反論の言葉を抑えた。
そんな問答をしている間にも自分の小さな乳房に隙間を埋めずむっちりとした彼女の豊満なそれが押し付けられられる。胸囲の格差社会に悲しくなりながらもその、温かくて、柔らかい…慣れない感触に体のどこかがムズムズする。指でつままれて痛かったそこに彼女の堅いそれがコリコリと押し付けられてくすぐったいような、じれったいような変な気持ちが腹の下から燻ってくつり、くつりとゆっくりあふれ出てくるのだから始末に置けない。

「固まっちゃって、可愛いね。君って案外男性的なところもあるよね」

僕にこうされて、興奮してる。力仕事から事務作業まで難なくこなす節くれだった白い手がつつつ、とスカートからのぞく太腿に触れてびくりと全身がこわばった。膝上十センチほどのところから指を伝って少しずつスカートの奥へと向かう正体不明の感触に綱吉は思わず唯一自由に動く足を彼女の汚れのないそれの上に添えて、敵意をむき出しにねめつけた。

「…それ以上触らないでください。いくら確固とした地位と信用があっても…この状態で人を呼ばれて困るのは…言うまでもないですよね?」
「…へぇ…散々世話になってる先輩を売り飛ばそうって?…生意気」

仄暗くよどんだ、それでいてギラリと獰猛な肉食獣のような輝きを有する目に綱吉は一瞬びくりとたじろぐ。今すぐこの真っ暗な目から視線をそらせたい。これ以上彼女の目を見たくない、怖い。そんな本音が渦巻いて、素直な体がぶるぶると怯んだ震えを見せつつも綱吉は引かなかった。涙に揺れる紅茶色の瞳でまっすぐに漆黒の瞳を見つめて、いつでも自分は人を呼べるんだぞ、と威嚇して見せた。
そんな綱吉の精いっぱいの虚勢をもちろん雲雀は見抜いていたが、そんななけなしの抵抗自体久しく見ることのなかった新鮮なもので。雲雀は興奮交じりにてらてらと赤い自分の唇を同じくらい赤い自分の下でぺろりと舐めた。

「…、まぁ、このまま人に言えないような悪戯を君に仕掛けてあげてもいいんだけどね」

時間が押してるから止めにしてあげる。ぱっと両手と胸元が解放されてすぅすぅした冷たい空気に当てられる。ぽかんと拍子抜けした綱吉の表情に雲雀はしてやったりの笑みを浮かべ僕だってこの後やりたいことや行きたいところがあるんだから、とさも君に構っている暇などないという様子を見せつける。
色々と納得できないながらもわが身の安全を取った綱吉はそんな雲雀にオレと違ってお忙しいですもんねと精一杯貼り付けた笑みを浮かべてせかせかと乱れた衣装を慌てて正す。

これ位の事なら帰りにケーキやなりイタリアンなりフレンチなりに寄って飛び切り美味しいものを晩御飯にすればきれいさっぱり忘れられる。そんな綱吉の虚勢交じりの余裕をそれとなく感じ取った雲雀はむっと口をへの字にしながらももう一度彼女の細く白い腕を取って、ぐいっと自分の方に引き寄せて、
ルージュでかさつく唇を彼女のそれに無理矢理に押し当ててた。

うめき声をあげる暇などなかった。閉じるタイミングを失って開きっぱなしの目は彼女の端正な顔をドアップに映し出す。くちゅり、ぴちゅりと水がぶつかってはじける音を間近で感じながら綱吉は一方的で予想外の彼女の口づけを抵抗もできずに享受した。ざわざわと舌がこすりあわされるたびに泡立つ肌に逃げようと思いながらも抑え込もうとする両手を何もできずにただ受け入れて。1分だか2分だか、綱吉にとっては4分5分の長い理不尽な時間をただ過ぎ去るのを待った。

「また明日ね、沢田綱吉」

ごちそうさまと艶然な囁きを熱っぽく耳元に残して悠々と立ち去る雲雀に綱吉はあんの阿婆擦れ爆破しろと到底届きそうもない毒を吐いた。








「お前の許容範囲ってどこまで広いの」

鼻歌交じりにエントランスをくぐる雲雀にアラウディは軽蔑交じりの視線で問いかける。振り向いて視界に入ったアイスブルーには呆れとちょっとした軽蔑と…そして憤りだろうか。彼も彼なりにあの出来の悪い新入社員を気に入っているのだと思うと思わず皮肉めいた笑みがこぼれた。

「さぁね。でも少なくともあなたは含まれてないよ。1度の味見で十分だったから」
「見かけの割に可愛いものにご執心だと思ってはいたけど…まさか女にまで手を出す節操なしだとは思わなかったよ」
「嫌だ、見てたの。綱吉が此処辞めたら確実にあなたのせいだよね」
「責任逃れかい?見苦しい…」

ため息交じりにさらりと雲雀をあしらうアラウディに雲雀は途端に挑発交じりの視線を冷めきったものへと変える。

それで、アラウディ部長。ご用件は?
さっさと言うこと言って引っ込みな。普段欠片も使いもしない敬語に敵意まで乗せてくる雲雀にアラウディは小さく嘆息してあまりあの子で遊ぶなと一言告げて踵を返した。

「男だからって勝った気になるなよ…」

昔からそうだった。いつも余裕交じりで、鉄仮面を崩すことが無くて、欲しいものをさらりと手に入れる彼が憎らしくて、大嫌いで、羨ましくて。
小さく可愛い彼女でなくこんないけ好かない男に自分の醜い一面を見せることになるなんて。
怨嗟混じりのの雲雀の呟きは綱吉宛ての館内放送にかき消されて誰にも届くことはなく虚空に消えた。
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