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□飼育小屋の兎番長
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次の日の昼休みは昨日のこともあって予め先生に事情を話したうえで自分の分の給食を持って兎小屋へと向かった。
どうせ教室で食べても班の皆は綱吉をいないものとして扱うのだ。それならまだ自分達の相手をしてくれる兎たちと昼食を食べるほうが居心地がいいのかもしれない。

「なんだ、今日はここで食べるんだ」

平らなコンクリートの上に給食のトレイを置いたとき背後から少年に声をかけられた。
こんなところに来る人がほかにいるのか…?不思議に思いながらもあたりを見回すが誰もいない。空耳だろうか。小さく首をかしげながらも綱吉はいつものように兎達のエサを倉庫へ取りに行こうとする。

「どこ見てるのさ。こっちだよ。」

同じ距離からまた同じ声で声がかかる。自分の耳が確かなら声は兎小屋の中から聞こえてこなかったか。まさか兎が人の言葉を聞いたのだろうか。昨日自分が兎語なんてわからないと言ったから。
そんな馬鹿な。恐る恐る兎小屋の方を見て見るとそこには自分と同じくらいの年齢の黒髪の少年が足を組んで藁の山の上に座っていた。どこの中学のものだろうか真っ黒な服はよく見たら学ランと呼ばれる制服で風の文字が見える腕章がついている。さらさらとした丸い頭からはぴょこんとこれまた黒ウサギの耳が生えていた。まるでヒバリさんみたいだ、そう紡ぎかけた思考をあわてて綱吉は頭を振って否定した。いやいやそんな。どこの世界に一晩で人間に化ける兎がいるというのだ。そんなの化け兎もびっくりではないか。

「失礼なことを考えているようだけど…君の想像力が僕の言語を理解して姿をそれに適用させるレベルまでたくましくなっただけだよ。端から見れば僕はただの兎だよ。黒兎のヒバリって名前のね。」
「え…どういうこと…?」
「つまりは今君に見えてるものは君自身の空想のようなものだよ。要するに白昼夢。そんなことよごはん入れてよ。お腹すいた。」

余りに不親切な説明を一方的に投げつけた後、ヒバリは足もとに寄ってきた兎3羽を両脇に抱え、つっけんどんに綱吉に命令する。
納得できないことも多々あったが、とりあえず言葉が通じるようになったのならいいやと考えることを即座に放棄し、綱吉は言われるがままにとりあえず餌置き場へと急いだ。

「今日は…どのくらい食べますか…?」
「昨日より少し少な目。ミミとハナが少し苦しそうにしていたからね。」
「…すみません」
「僕はそのお皿なみなみね。…ちょっと入れ過ぎだよ馬鹿。」
「ひぃ!ごめんなさい…!ってなにもってるんですか!」
「知らないの?トンファーだよ。君が失敗するたびにこれで咬み殺してあげる。」
「兎なのに?!」
「御託はいいからさっさと用意しなよ。じゃないと咬み殺す」
「うわぁああん!」

意思疎通ができてからは凶暴という印象しかなかったヒバリに対し、今では凶暴に加え理不尽という印象も増えた。要するに雲雀に対する印象は大してよくなかった。

「ちょっと、つな。なに外で食べようとしてるのさ。君も中で食べるんだよ。」
「えぇえ!オレもですか!?」
「当たり前でしょ。ほら、さっさとこっちきなよ。」

ぽんぽんと敷き藁のてっぺんから少しずれて綱吉のためにスペースを開ける。有無を言わせない口調に綱吉は給食取ってきますね、と断ってから一度兎小屋の外に出て、約束通り、雲雀の隣に腰かけて給食を食べた。
いつも通り味気のない給食のはずなのに、いつもよりも食べることが楽しいと思えた。
ほんのりと顔をほころばせながらコッペパンをかじる綱吉をヒバリは満足げに見つめていた。
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