Text2

□飼育小屋の兎番長
3ページ/11ページ



その次の日も綱吉はお昼休み、クラスの皆が給食の準備にいそしむ中ただ一人ひっそりと裏庭の飼育小屋に赴いていた。掃除は昨日終わらせた。今日やることは餌をやるくらいだろうか…。素直で可愛いミミちゃん、シロちゃん、ハナちゃんそしてあの気難しいボスのヒバリさんに思いをはせる。
昨日は掃除をするまでが一苦労だったし、餌をやった後も足りないというのが理由でなかなか外に出してもらえなかった。幸いうわさに聞くほど傷だらけにはならなかったが、大変な係の仕事だということはわかった。
それでも元々小さな動物は嫌いじゃなかった綱吉は投げ出したい、逃げ出したいという気持ちにはならなかった。
ヒバリさんが人間に乱暴をするのはきっと3羽の白兎を守るためだとなんとなく分かったからだ。
人間であろうと動物であろうと汚い所にずっと閉じ込められるのは嫌だし、自分でご飯を取りに行くことができない以上、ちゃんとした量を食べさせてほしいと思うのは当然だ。
友達同士だってされて嫌なことがたくさんあるのだ。兎にだって痛みを伴う触り方や、ストレスのかかる抱き方があっても不思議ではない。それらすべてを理解してまもればヒバリは必要以上に攻撃してこないなんとなくそう理解した綱吉はもしかしたらヒバリさんやほかの兎たちとも仲良くできるのではないかと思ったのだ。

「こんにちは。ごはんの時間だよ。」

案の定、扉を開くと昨日とは違い白兎3羽はぎこちないながらも綱吉の足もと近くに寄ってきた。微妙な距離感が何とも言えないが、隅っこで震えている昨日と比べると心を開いてくれているのは明確だった。そういえばヒバリさんはどこにいるのだろう…そう思った矢先に後頭部に軽く衝撃が走った。

「いだっ!」

げし、とヒバリの前足がツナの後頭部を踏み台にし、たし、と颯爽と藁の上に着地する。
どうやら扉の横の小さな棚の上から飛び降りたらしかった。兎なのに猫のような俊敏さを持っているのが黒い凶暴な兎番長、ヒバリの特徴だった。

「何するんですか!ヒバリさん!」

前足の爪が食い込んだのか地味に頭が痛い。涙を浮かべながらヒバリをにらみつけるとぷーいとそっぽを向かれる。ぼーっとしてるから悪いんでしょ。そんなこえすら聞こえてくる気がして綱吉はむっと唇を尖らせる。
よくよく見て見るとたしたしと銀色のエサの器を叩いている。どうやら早く餌を用意しろとのことらしい。
ヒバリさんの分だけ餌少なくしてやる。ウサギ3羽のの背中を順番に撫でながら小さくそう毒づくと、ヒバリはぎっと睨みつけて綱吉に飛びついてくる。たしたし、がりがりと小さな手で叩かれ、引っかかれ綱吉はごめんなさいとすぐに音を上げた。
昨日の兎たちの食べた量と、今日初めての食事だということを考慮した末、綱吉は昨日の2倍の量のエサを大きな銀皿と、白い角皿にざらざらと注ぎ込んだ。よほど昼食が待ち遠しかったのだろうか、ヒバリ以外の三羽は一目散に餌へと掛けていった。ヒバリは一羽、敷き藁の山のてっぺんでかりかりと後ろ足で頭を掻いている。お腹すいてるんじゃなかったのと文句を言いそうになったが、もしかしたら、あの子たちが食べ終わるのを待っているのかもしれないと思った綱吉は出かかった言葉をすぐさまに引っ込めた。
人間には少しばかり怖くて、手におえない彼だが、同胞の兎たちにはとても優しくて、一生懸命に守ろうとしていることが昨日の数十分だけでも綱吉には容易に見て取れた。それを人間の勝手な都合でなじるのはおかしいだろう。
お昼休みの飼育係の仕事はエサをやるだけだ。食べ終わるまで様子を見ているべきだろうが、ヒバリ以外の三羽はこのままいくとすぐにでも完食してしまいそうだし、ヒバリの場合は食べるかどうかなぞ一々見守る必要もないだろう。
昼休みになってすぐに兎小屋のもとに来てしまったため、自分の御飯は手つかずのまま机の上だ。
生憎綱吉が返ってこないことを気に掛けるクラスメートも友人も綱吉にはいない。このままでは冷めた給食はそのまま放置されてやがて戻されてしまうのだろう。
また放課後に様子を見に来ることにしようと綱吉は静かに飼育小屋からでて扉を閉めようとするが、

「あれ、ヒバリさん?」

またもやヒバリにズボンの袖口を加えられ引き留められた。
今日はいったいなんだというのだ。取りあえず素直にヒバリをやんわりとズボンからはずし、抱き上げては見るが相変わらずてしてしと足で手に容赦のないけりをお見舞いしてくるだけでヒバリの意図など当然わからない。

「あの、ヒバリさん。オレそこまで頭良くないからそんなに蹴られたって何が言いたいのかわからないんです。」

てしてしがげしげしになった。足の爪が腕に当たるたびに引っかかる。痛い。いらだっているようなヒバリの様子になんで気づかないんだ、なんでわかってくれないのって言われているような気がしないでもない。だが、綱吉とて出来が悪くて有名な小学5年生。日本語の国語も危ういのに、兎語を理解しろなんて到底無理な話だ。

「あ、痛い…!ヒバリさん咬まないでください…!」

結局ヒバリと支えていた手を噛まれ綱吉は屋から出るにも出ることができず、昼休みが終わるぎりぎりまでヒバリが自分の御飯を食べ終わるのを待たされる羽目となった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ