新・三國夢短編

□探し物
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――ない、見つからない!

ガサガサと慌ただしく草木を掻き分けて無くしてしまった物を探す。

少しでも臨機応変に戦えるようにと、多くの武器を扱うため槍の鍛練をしていたのだが…。
その最中に誤って槍の柄が腰に携えていた短剣を掠め、訓練所から少し離れた――草木が生い茂る場所へと飛んでいってしまった。

そこまで遠くにまでは行っていないはずなのだが、焦って視野が狭まってしまっているのかなかなか見付けることができない。
晴れ模様であったはずの空にどんよりとした暗い雨雲が広がり始め、今にも大地に自然の恵みを惜しみ無く振る舞わんとしていた。


「――里桜、そんなところで探し物か?」


このままでは不味いと更に草を掻き分け、衣服が汚れるのもお構いなしに地面に膝をついて短剣を探していれば、背後から聞き慣れた男の声が聞こえて思わず静止する。
パッと後ろを振り向けば、そこには頭を過った男の姿があった。


「李典殿…」

「もう暫くと経たないうちに一雨降るぞ、恐らく大降りなるな」


クシャクシャの髪に色素の薄い、限りなく青に近い瞳を持った曹魏の将――李典が人の良さそうな笑みを浮かべながら私の傍にやってきた。


「李典殿、確か今日は合肥で行われる模擬戦に参戦されるはずだったのでは…」

「あー、それなんだが…なんか此処に残ってないと駄目な気がしてな。んで、楽進と交代してもらったんだ」

「……大丈夫なんです?それ…怒られませんか?」

「まあ…悪い感じはしないから大丈夫だろ」


なんだそれ、と思わず笑ってしまいそうになったが…ふと短剣を無くしてしまったことを思い出して焦りと不安が再び胸中を占める。
不味い、このまま雨が降ってきたら探すのが困難になってしまう。

話の途中で悪いが、李典に事情を話して会話を一区切り置かせてもらおうと口を開こうとした。
だが、それは彼の行動により声に出そうとしていた言葉は別のものに刷り変わってしまった。


「よっ…俺の勘だと、恐らくここら辺りに…」

「な…っ李典殿!何をなさっておられるのですか!?」

「何って…アンタの失せ物探しに決まってんだろ?」


さも当たり前だと言わんばかりの物言いに一瞬言葉に詰まる。いや、だからと言って李典殿にそのようなことをさせるわけには…!
慌ててしまっているからか上手く言葉にできずにいると、李典はニッカリと子供のような得意気の笑みを見せた。


「予感的中お手の物。勘の冴える男だぞ、俺?まあ任せろって」


探し物
(――そして見つかる)

(おっ、この短剣か?)
(それです!まさかこんな所に飛ばされてたなんて…)
(今度からは気を付けろよ。…まあ、また無くしても探してやるけど)


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