新・三國夢短編

□謀られた
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ああ、可笑しいな…確か私は所詮、彼氏と言うべき存在である馬岱に新しいソフトを買ったから家でゲームしないかと誘われたのでホイホイ招かれたのだけど。

確か馬岱はほのぼの系かアクション系のものしかやらないからと、今回もその類いなんだろうな、今度はどんな癒しが待っているのかなーっと内心で浮かれながら彼の家にお邪魔すれば…。

とんでもないものが待ち受けていた。


「――わああああっ!?」

「のおおおおおっ!?」


私と馬岱、二人で悲鳴を上げながら遊んでいるソフト…それはかの有名なホラーゲームだった。

ゲームの内容は、霊感の強い女の子が失踪してしまった兄を追ってとある館に射影機を持って足を踏み入れ、その館に残る怪異の謎解きをしていくという話である。
これが本当に怖い。絶妙なタイミングで襲いくる悪霊達による恐怖心を掻き立てられる演出には鳥肌ものだ。ホラー耐性のない私にはかなり心臓に悪いゲームである。


「あああ里桜っ!後ろ、後ろに居るって!」

「わわ解ってるよ!でもこのゲーム難しい…ってあああこっち来んなぁぁっ!」


ちなみにプレイヤーは私である。可笑しいよね馬岱、私がホラー苦手なの知ってるはずだよね?なのになんで私がプレイしてんですか嫌がらせですかやだー!


「あっ、ちょ…待っ!死ぬ!やられ…っああああ!」

「あー…負けちゃったね…」


神官服を着た男の霊相手に射影機を片手に頑張るが、奮闘も空しく主人公である女の子は霊の攻撃を喰らい倒れてしまった。ゲームオーバーである。


「うああ…手が震えまくってるよ…」

「大丈夫?あらら…、すごく震えてるね…」


コントローラーの振動によるものか、はたまた恐怖からなのか両手は小刻みに震えてなかなか止まろうとしなかった。

手を握っては開いてを繰り返していれば、見兼ねた馬岱が苦笑いしながら私の手を握る。
自分とは違う男の大きな手が労るように擦ったり握ったりと優しく触れてくる感覚に少し心が落ち着いてきたのか、震えが徐々に治まってきた。

だが、馬岱の優しさに騙されてはいけない。こうなったのは誰の所為だ。
少し不機嫌そうに馬岱を見やれば、彼は私の心情を察したのか申し訳そうに笑いながらごめんと謝った。

ふと壁に掛かっている時計に目を向ければ短い針は18時過ぎを指しており、外は茜色に染まっているということに気付く。


「あ…、そろそろ帰らないと…」


しかし、このゲームをやった後に一人で夕暮れ時を歩いて帰るのは流石に怖い。
そう思った私は未だに手を握ってくれている馬岱に家まで送ってもらえないか聞こうとした。

だが、そこで私は重大なことに気付いた、気付いてしまった。

今日から明後日まで、両親が県外にいる母方の両親――お祖母ちゃんお祖父ちゃんの家に泊まりがけで出掛けていることに。兄が夜勤の仕事で明日にならねば帰ってこないことに。しかも明日は休日で兄が帰ってくるまで一人だということに。

今日の夜は私一人が家でお留守番だということに今更ながら思い出した私は、治まってきていたはずの震えが再び戻ってくるのを感じた。やばい、これは冗談抜きでやばい。


「ば、ばば馬岱…!今日、私ん家誰もいないんだけど…!」

「えっ?あー…、そういえば一昨日そんなこと言ってたね」


ちょっと待って。もしかして知ってて私にあのゲームやらせたということ?それどんな虐めなの、馬岱って鬼畜だったの?

怒りや何やらで混乱してしまっている私を前にして、馬岱は満面の笑みを浮かべながら口を開いた。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよっ!今日は俺の家に泊まれば良いだけのことなんだから」

「は…えっ?」

「俺が里桜を独りぼっちにさせるわけないじゃないの!あ、今日は若は帰ってこないから俺と二人っきりね」


もはや言葉も出ないとはこの事だろうか。馬岱はルンルンとしたようにじゃあ夕飯の準備でもしようかと言っている。
あれか、私は嵌められたということか。私がホラーが苦手なのを知っていてこのゲームをやらせたのはお泊まりが目的だったと。

何も言えずにいると、馬岱は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「せっかく二人になれるチャンスを俺が逃すわけないじゃないの」


その瞬間、私に選択肢はないということを悟った。


謀られた


(おのれ伯瞻…!)
(はいはいー、お泊まり決定!なんだったらご飯のあとゲームの続きでもする?)
(絶対やだ、今度は馬岱がやってよ)


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