戦国夢短編

□これが日常
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「――大殿様…っ、」

「ん?」


ブルブルと震える己の手を握り絞めながらお仕えしている主に声をかければ、彼は相も変わらぬぽわわんとした笑みを浮かべていた。

しかし、今の里桜にとって彼のその笑みは彼女の中で激しく燃え上がっている感情を更に荒ぶらせるだけだった。


「…今回は、何日程だと思いますか?」

「そうだね…十日くらいかな?」


主に投げ掛けた質問の返答に、里桜は己の中の何かがブツリッと切れるのを感じ取った。


「……何が十日ですか!たった五日間しか保ってないじゃないですかぁぁあっ!!」


先程から主語が抜けているため、解りづらい事この上ないだろう。
里桜が何故こうも主君に対して怒り狂っているのか…そう、それはその主君である元就が原因であった。

歴史家を目指して著作し続ける元就だが、彼はどうも片付けるという行為が苦手らしく、放っておけば彼の自室は本の樹海と化してしまうのだ。

それ故に見兼ねた里桜が暇をみて掃除をするのだが、どんなにやっても彼の部屋が綺麗な状態を保っていられるのは長くてたったの五日だ。十日なんて夢のまた夢と言っても過言ではないだろう。

一度二度ならばまだ許せるだろうが、そんな生温いものではない。
このやり取りも何度目なのかもはや数知れず。里桜が怒りを爆発させるのも、もはや恒例のようなものとなっていた。


「本は出したら戻す!片付ける習慣を身につけてください!」

「いやあ、どうも片付けるのは苦手でね…」

「知ってますよ!だから私がこうやって片付けてるのではありませんか!」

「そうだね…うん、すまないね里桜。これからも頼むよ」

「悪いと思ってないですよね?今の絶対思ってないでしょう大殿様の馬鹿っ!」


怒りに声を荒げながらも、里桜は既に樹海の伐採――もとい、本の山を片付け始めていた。
……もはや怒りを通り越して半泣き状態であるが。

そんな里桜を眺めながら、元就はただ静かに微笑する。その瞳が、どこか優しげな色を浮かべていることに、里桜は気付かずにいた。

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