戦国夢短編

□His mind
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あの人は笑わない。

常に何を考えているのか悟ることのできない無表情なあの人は、全く笑みを見せてくれない。ごく稀に口元は孤を描いていても、目は笑っていない。

本当の笑みを、見せてくれない。私では、あの人の"居場所"にはなれないのだろうか。


「――参謀だから表情に出しちゃ駄目でしょ?」


団子を一口食べながら――少年のように華奢な体格の――青年…半兵衛はそう言い放った。

確かに彼の言い分は分かる。分かるのだが、それでも少し納得できない。


「それでも、私は本当のあの人に触れてみたいんですよ。……あの人の、"居場所"になりたい」


縁側に腰掛けながら、片手を身体を支える軸にして、もう片方の手を空に延ばす。
空は綺麗な蒼天で、自分の心と違って酷く清んでいた。


「……そういうのはさ、本人の前で言うべきじゃない?」


団子を食べ終えたのか、彼はズズッと音をたてながらお茶を飲むと、「美味しかったーっ」と言いながら背伸びをした。
簡単に言うが、かなり無理に近い気がする。言ったところで鼻で笑われるか、無駄なことだと一蹴りされてしまう気がして、勝手に不安になってしまう。

…だからこの青年に相談しているのだが。
苦笑い混じりの笑みを浮かべながら、延ばしていた腕をゆっくりと降ろす。


「でも良いなぁ、官兵衛殿」


半兵衛の言っている意味が解らず、里桜は首を傾けると彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「里桜さんにこんなに想われてるんだからさ。羨ましい事この上ないよ」


そう言うと半兵衛は大きな欠伸をし、ポスンッと音をたてながら里桜の膝に頭を預ける形で横になってきた。


「わっ…は、半兵衛殿っ?!」


所詮、膝枕の状態となったことに驚き声を上げると、半兵衛はケラケラと子供のような笑みを見せた。


「話し聞いてあげたんだからさ、これくらいいいでしょ?」

「いや、確かにそうですがこれは…」

「気にしない気にしない。もー俺眠くってさぁ…てことで、おやすみ〜」

「ちょっ…」


有無を言わさずそう言うと、彼は穏やかな寝息をたてながら眠りについてしまった。
そんな半兵衛に諦めたのか小さく溜め息を吐くと、「…今回だけだからですよ」と小さく呟きながら、里桜自身も縁側の柱に身体を預けながら目を閉じた。


(…本当は譲りたくないけど、これで許してあげるよ。官兵衛殿)


仏頂面な彼に心の中でそう呟くと、半兵衛は自分の中に秘めた想いを無視しながら眠りについたのだった…――。


fin...
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