戦国夢短編
□出来心
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あいつを見ていると、何故だか自分を抑えられなくなる…。
「――…ん?」
兵達の鍛練を終えて自室へ戻ろうとした時、ふと見覚えのある色の着物が目に入った。
よく見ると、縁側の柱に寄り掛かり目を閉じている里桜がいた。
「…おい、里桜?」
「…………」
近付き声をかけてみるが返事がない。
耳をすましてみれば、小さくとだがすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてきた。
「…馬鹿、こんな所で寝てると風邪を引くぞ?」
「…ぅ…んっ……」
注意をしてみても、意外と深い眠りについているらしく、里桜は少し身じろぎしたぐらいで起きることはなかった。
溜め息を吐きながら苦笑を浮かべると、何気なく里桜の顔を覗いてみた。
長く綺麗な髪、髪の色と同じであろう瞳は閉じられており、睫毛がそれを縁取っている。
――意外と睫毛、長いんだな…。
普段なら見ることのできない里桜の寝顔にしばし見入っていると、ふと里桜の唇が目に留まった。
ふっくらとした艶やかな唇は薄く開いている。
――…まずい。それはとても柔らかそうで…俺は吸い寄せられるように里桜の顔に近づいた。
俺は無意識に、その唇に自身のそれを重ねようと…
「――…ぅんっ…?」
…した瞬間、里桜が目を覚ましてしまった。
「あ゛っ………」
「………ぇ?」
ピシリッとお互いに時が止まり、しばしそのまま見つめ合った。
俺と里桜との距離はほぼ零に等しく、互いの唇は何か小さな衝撃があればすぐに重なり合ってしまうだろう。
そしてその数秒後…
「…わぁあっ!?」
「っうわ、ぁあっ!?」
俺と里桜は顔を赤くして勢いよく顔を離した。
里桜はその勢いのまま後ろに跳び退くと、背中を障子に預けて口許を両手で覆った。
俺は跳び退くまでには至らなかったが、ただその場から動けなくなってしまった。
「〜〜〜〜〜っ!」
「わ、悪かったっ!出来心でつ、つい…っ!!」
このあと、里桜への弁解に半刻程かかってしまった。
…俺の馬鹿、本当に馬鹿。
――ただ、どこか満更でもなさそうに見えたのは俺の気のせいだろうか?
fin...