戦国夢短編
□光注ぎて眠り逝く
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「…何故庇った?」
目を開けると、官兵衛は目を見開いていた。
「泰平の世を、…創りたいので、しょう?今、それが成されるというのにッ…貴方が見れなければ…、意味が、ない」
「…っもういい、何も喋るな」
官兵衛は里桜の横に跪づき、彼女の上半身を起き上がらせる。
彼女の腹部からは、止まることを知らないと言わんばかりの血が溢れ、流れゆく。
その血が、再び大地を赤く染め上げていった。
官兵衛はせめてと思い、止血しようと彼女の赤く染まった傷口に触れようとしたが、その前に里桜が官兵衛の手をやんわりと掴んだ。
「…離せ」
「何、してんですか…手がっ、汚れますよ」
「黙れ。口を閉じていろ」
「そんなことッして、も…無駄だと、いうことは貴方も…気付い、て…いる、はず」
「黙れというのが聞こえぬのかっ…」
あの感情を一切見せなかった官兵衛が、微かな怒りと悲痛な声を露にした。
そんな彼に微笑むと同時に、喉から熱いものが込み上げてきたが、里桜はそれを無視し話し続けた。
「私は、貴方っさえ生きていれッ…それ、で、いい」
「…………ッ」
「官兵衛、殿が…半兵衛、が望っ…だ世が、成せた、ら…それでかまわな…ッ」
「止めろ…それ以上話すなッ」
無視していたものが、込み上げ、口から溢れた。
燃えるように熱かったはずの腹部の傷はすでに冷え切っていた。意識も、もはや定かではない。
ただ、官兵衛もこのような表情ができるのだということ知った喜びと同時に、最期は笑った表情が見たかったと悲しくも残念に思った。
「かん、べぇ…ッど、の…」
手をのばせば、官兵衛は里桜の身体を支えていない手で掴み、握りしめた。
…あるじゃないですか。貴方にも、『人の心』が。
おそらく、官兵衛は気付いていないだろう。己が今、どのような表情をしているか。
せめて、最期くらい笑ってほしかった。
だが、もう時間が、ない。
だからせめて、自分は精一杯の笑みを浮かべて、あの青年のもとへ逝こう。
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