戦国夢短編

□光注ぎて眠り逝く
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貴方の顔に笑みを宿すためなら、私は貴方のために修羅となり、刃となり、盾となりましょう。

貴方が生きて行くのなら、私は全てを捨ててでも貴方を護り行こう。



1615年、慶長20。大阪の陣は徳川軍の勝利により幕を降ろした。
豊臣は滅亡。生き残った者など、無に等しいだろう。
過去には立派で皆が活気づいていたはずの大阪城は、豊臣家は、もう、ない。

私が手をかけてしまった。豊臣を、大切だった仲間を。三成も、清正も、正則も、幸村も、くのいちも、甲斐姫も。
皆、皆死んでしまった。彼らの命を奪ってしまった。

現に、目の前には地に伏し、血で赤く染まってしまっている清正の身体があるのだから。


…私は、彼らを裏切ったのだ。



「何を立ち尽くしている」



後方から感情が一切込められていない低い男の声が聞こえ、里桜はゆっくりと後ろを振り返った。



「官兵衛殿…」

「これで豊臣という大きな火種が消えたのだ。…何故そのような顔をする」



後ろを見遣ると、元は豊臣の軍師だったはずの黒田官兵衛がそこにいた。
私が、徳川側となるきっかけとなった人物だ。

彼は清正の遺体に近付き、彼を見下ろしたが、もはや興味がないのかゆっくりと遺体に背を向けた。



「…残る小さな火種もいずれは脅威となるやもしれぬ」



その時、微かにだが清正の手が動くのを、里桜は見逃さなかった。
彼は最期の命の炎を燃え上がらせ、官兵衛を討たんとしているのだ。

…豊臣を、家族を壊させないために。

官兵衛は、清正が己を斬らんとしていることに気付いていない。



「それらも、消して行かねばな…」

「官兵衛殿っ!!」



気付くと、身体は勝手に動いていた。

里桜は官兵衛を護るように彼の背後に立った。
それと同時に、腹部に鋭い痛みと燃えるような熱さを感じた。



「なんで…っなんでだ、里桜ッ…」



里桜の前には、鎌を振り下ろし、悲痛で苦しげな表情をした清正が立っていた。



「ごめん…清正…」

「っ…馬鹿、やろぉ…」



悲しげな笑みを浮かべながら清正に謝罪の言葉を言い放てば、彼はいつもの罵言を一言呟き、そして今度こそ事切れた。

ドシャッと音をたてながら倒れた清正に続くように、里桜も自身の身体を焼け焦げ、赤く色づいた大地に倒れ込んだ。


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