三月
□花
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「ど、どうやったんですか!?」
不思議そうに尋ねるが、僕にとって花を回復させることは簡単だ。何故なら僕は地の王なのだから。
僕にしてはらしくないことをしたが、彼女の機嫌が直ったようだから良しとするか。
「それでは暇も潰せたので、僕はこれで。」
「あ、待って!!」
庭を離れようとした僕を彼女がすごい力で引き戻す。
少し服が乱れてしまった。
「あの、私、杜山しえみっていいます!お花、ありがとうございました!」
「あ、はい…」
感謝するのはいいが服から手を放してはくれまいか。
「ごめんなさい、私、貴方のこと嫌な人だと思ってしまって…あの、良かったらまたここに来てくれませんか!?」
いや、悪魔なのだから嫌な人であるのは当然なのだが…
ん?ところで今彼女は何と言った?
「貴方、お花に詳しいんですよね?私、根っこを見ても元気じゃないって気づかなくて…もし良かったら、お花のこと、もっと教えてくれませんか?」
きらきらした目でこちらを見られても困るのですが…
でも、この庭はなかなか居心地が良いし、訪れる口実にはなるだろうか?
「…わかりました。」
きっと兄上にばれたら怒られるだろうが、悪いことをするわけではないのだから、おそらくは大丈夫だろう。
「本当ですか!?よかったぁ…ありがとう、アマイモンさん!」
「っ…!」
へにゃりと笑ったその顔があまりにもふわふわしていて、何故か顔が熱くなるのを感じた。
「と、とりあえず、今日は帰ります。」
そそくさと宙に浮かんで庭を離れる直前に振り返ると、彼女…杜山しえみは笑顔でこちらに手を振っていた。
何故このようなことになったのかはわからないが、これからあの庭と彼女に会えると思うと、胸が温かくなった気がした。
虚無界ではあれほど恐れられていた僕がこんな気持ちを抱くなんて不思議で仕方ないが…
新しい暇つぶしができたのだから、今はそれを楽しむことにしよう。
○Fin○