三月
□西行妖の咲くころに(☆)
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「妖夢」
澄んだ高い声が、私の名前を呼んだ。
「はい、幽々子様」
私は西行寺邸の庭を整えながら幽々子様を見ると、その御方は花が咲く直前の桜を見つめていた。
「この桜は…この西行妖は、いったい何時になったら咲くのかしらね?」
そう言うと笑いながら私の方を向く。
しかし、その表情はどこか寂しげだった。
「春度は着々と集まっています。きっともうすぐ咲くと思うのですが…。」
「早くしないと、彼女が腐ってしまうかもしれないわね。」
クスクスと笑う。
『彼女』とは、幽々子様自身の死体のことだ。
幽々子様は、そのことを知らないのだが。
何故かはわからないが、幽々子様は自分の死体を甦らせようとしている。
その死体が甦ったとして、幽々子様はいったいどうするおつもりなのだろうか?
「あの…幽々子様」
「なぁに?」
聞こうとしたが、やはり聞きづらい。
「いえ、何でもありません。」
そう、と言って幽々子様は宙に舞う桜の花びらを捕まえ始めた。