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□楽しい24日風味
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10代目に24日の予定を聞かれた時は驚いた。
家族がいない俺を(いるけど)気遣って下さったのだろうか。

ここ数年はミサにも行っていない。
今の俺には敬虔な祈りを捧げる相手もいないので、毎年この時期はなんの意識もなく過ごしてきたけど、
そーいえば街にはクリスマスカラーの商品が並び街路樹にはイルミネーションが施され、クラスの奴らが今年のクリスマスは誰と過ごすだのなんだの話していたのが聞こえてきて、
日本人がクリスマスを恋人同士で過ごすというのは本当らしい、なんて思ったのも最近だ。
日本に来て初めてのクリスマス。

10代目はご家族と過ごされないのか聞いたら、土日で済ますらしい。今年のクリスマスイブは月曜日だ。
俺の為に時間を割いて下さるという。俺は何て幸せな部下なんだ。

クリスマスが楽しみなんて、子供の頃以来だ。
10代目はどんなケーキが好きか、飲み物はシャンパンでいいかなんて、柄にもなく浮かれてしまう。危なく七面鳥を1台用意する所だった。

ショーケースの前でケーキはホールで買うべきか無難にピースで何種類か買うべきか、でもやっぱホールの迫力は捨て難いし切らずにフォークで刺して食べるのもいいななんて考え込んでたら店員に声をかけられた。

『恋人と召し上がるんですか?』

…恋人?
…?
…有り得ないだろ普通に考えて。俺とあの方じゃ違い過ぎる。
思わず放心してる俺に『女の子ならやっぱりイチゴですよ』と店員が追い討ちをかける。
…女の子じゃない。
でも10代目に苺と生クリームは絶対似合う。
うん、似合う。可愛いなぁ…なんて、罪深い妄想をする俺を正気に返らせるようにタルトを勧められたが結局「オススメ」の苺のケーキを注文してしまった。



あの店員のせいで余計な事が頭を巡る。
もちろんファミリーとして誘って下さったと思っていたけど、あんな、さも当然のように「恋人」と言われると…。
10代目は何故俺と過ごす事を選んだのだろう。
愚劣な考えを掻き消す様に煙草に火をつける。家族のいない俺を(いるけど)気遣って下さったのだ。俺は幸せな部下だ。

なんでこんなに浮かれてしまうんだろう。この雰囲気に感化されすぎだ。
今夜は10代目の幸せを祈ろう。
誰に祈る訳ではないけれど。


end

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