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□13日金曜風味
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『あ、猫』

目の前を横切る黒猫に10代目が駆け寄る。

猫は一瞬だけ警戒したように動きを止めたけど、すぐに10代目の差し出す右手に額を擦り付けた。
かなり人に慣れた猫だ。首輪が付いている。

『可愛いね』
しゃがんで猫をじゃらす貴方が俺を見上げる。
…聞かずにいられない。

『10代目は黒猫が…』




…俺が育った国では不吉の象徴だった。その色だけで黒猫は異常なまでに嫌われた。斥けられ、虐げられた。人の手に掛けられる黒猫もいた。
もし、違う色で生まれてきたなら…。
くだらない迷信に惑わされ石を投げつけた人に、暖かい毛布とミルクを用意されたかもしれない。

黒猫はいつも孤独だった。
そんな忌み嫌われる存在を、いつからか俺は自分と重ねていた。
不当な理由で迫害される俺達は、人の優しさを知らない。


『…嫌いじゃないんですか?』

『え?横切られると不吉だから、とか?』

…そう、悪魔の使者を。
『俺のいた国では…すごく嫌われてました』

貴方は笑った。
『日本にもそーゆーのあるよ。四と死の読みが同じで縁起悪いから、病院には4階が無かったりするんだ』

何処にでも、忌み嫌われる存在というのは在るのですね。

『俺は黒猫好きだよ?』

…?
「黒猫が好き」
…あの国では有り得ない。
『だって真っ黒で綺麗じゃない。昔観た映画の喋る黒猫は可愛かったなぁ』

…黒猫が…綺麗。

『それと、』
貴方が再び黒猫を撫でる。
『俺はね、四は幸せのシだと思ってるよ?』


…ああ俺は。
貴方に対するこの劣情に名前を付けてはいけない。
口にしたら…穢してしまう。

でも広く深い貴方を慕わずにはいられないのです。


『なに泣いてるの?』
『…泣いてませんよ』
『あ、獄寺くんも撫でて欲しいんだ』

…できたら是非。俺は黒猫で良かった。

『よしよし』
『あの…』
『ん?』
『俺もその、映画観たいです』
喋る黒猫が出てくるという。

『じゃあレンタルして帰ろっか。俺も久し振りに観たいし』

本当は縋り付いてしまいたい。卑賤な俺には許されない。

けど、もう少しだけ、貴方に触れられているこの時が永く続きますように。


end

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