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□夕暮れ風味
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本はあんまり読まないけど、紙の匂いはスキ。







放課後の図書室には、俺たち以外は司書しかいないようだ。

グラウンドから聞こえる運動部のかけ声やボールの音がすごく遠くに聞こえて、
ココはまるで別の世界みたい。


6人掛けの大きめなテーブルに、教科書やノートを広げてからどれくらい経っただろう。



俺の向かい側のイスに座っている獄寺くんは、何やら厚い本を読んでる。
脇に積み上げた数冊の本も、どれも厚め。
タイトルは…、
よく分からないけど結構マニアックだ。


宿題を手伝ってもらうのに、別に図書室じゃなくても良かったケド、
俺の部屋にはゲームもまんが本も、
ベッドもあるワケで。

脱線する自信はスゴクあったから、今日は図書室。
でもそろそろ限界みたいだ。



真正面の獄寺くんをじっと見る。
オレンジ色の西日に照らされた髪の毛がキレイ。

眼鏡なんかかけて。
視力は悪くないクセに。

あー。キスしたいなぁ。



視線に気付いたのか、顔をあげた獄寺くんと目があった。

『どうしました?』
微笑みかけるキミ。

『キスしたいなぁと思って』
微笑みかえす俺。

『…!』
一瞬で真っ赤。
髪で隠れて見えないけど、きっと耳まで真っ赤でしょ?


いつものように『でも宿題…』とか『誰かが見て…』とか、ささやかな抵抗が始まる。

俺は頬杖ついたまま、貸出カウンターに視線だけ送る。
つられて獄寺くんも視線を追う。

さっきまでそこで作業をしていた司書は、カウンター奥の司書室に行ったようだ。


獄寺くんの方へ向き直った俺は、また微笑みかける。
『ちゃんと宿題もするからさ。その前に少しだけ、ね?』

まだ何か言いたげな獄寺くんを無視して立ち上がる。
左手を差し出すと、迷ってるような動きの右手がこちらを向いたので強く掴んだ。



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