ナナイロ
□ハルイチバン ‐ハルのアラシ‐
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先程よりも、より強く抱きしめられた。
彼の真意は解りかねたが、それでも、服越しの彼の体温や、鼓動の音はとても心地良く、醜い自分の存在を許してもらえた気がした。
驚きで止まっていた涙が、まるで、その暖かさに溶かされた様に溢れてきた。
そして、心に重く澱む欠片を吐き出すかのように、次々頬を濡らしていった。
あんな風に、‐まるで子供のように‐誰かの胸で泣くなんて。
…しかも、あの、獄寺さんの胸で。
つい先程までの状況を考えると、恥ずかしさと、何故という疑問が拭えないままだったが、彼の、腕の中の暖かさと心地良さが、あまりにも自分の中で大きくなってしまって、他の事を考えられなくなっていた。
窓の外には、変わらずに星々が輝いていた。
あの後、泣きはらした顔のわたしを気遣って、皆に気付かれないように彼が、客室であるこの部屋に連れて来てくれたのだった。
室内にいるので寒さは感じないが、未だに自分の肩に掛かっている、彼の上着が少しだけ切なかった。
(次、会ったら、ちゃんとお礼を言わなくちゃ。 獄寺さんの上着も借りたままだし、それに、シャツ濡らしちゃった、し…)
大泣きしただけあって、ずっと抱きしめていてくれた彼のシャツはかなり濡れていた。
この部屋に来るまでは、さすがにシャツが濡れているのを周りに見られるのは都合良くないという事で、上着は在るべき所に落ち着いていたのだが、部屋に着いたとたん、この部屋が思いのほか暖かくなかったので、再び、わたしの肩に掛けられたのだった。
断るわたしを半ば無視して、彼は部屋を後にした。
わたしは、独り残されたまま、それでも、泣いた事で妙にスッキリした気分で仄かに暖かい新たな感情を抱きながら、窓越しの空を眺めていた。
こんなに、晴れ晴れとした気分も、久しぶりな気がした。
今度こそ、本当にあの二人の幸せを祝福出来る気がする。
「ありがとう。 獄寺さん…。」
肩に掛かる彼の優しさに、改めて感謝した。
彼が分けてくれた温もりが、凍てついたわたしの心を溶かしてくれた。
誰にも、打ち明けられなかった想いを吐き出させてくれた。
星々に照らされながら、今日一日を考えた。
明日からは、自分の心を偽る事無く、笑える気がした。