ナナイロ
□ハルイチバン ‐ハルのアラシ‐
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「おい…。 言わんこっちゃねぇ。 いくら、酔ってるからっていって、言ってる傍からくしゃみしてりゃー世話無いぜ。 とりあえず、これでも羽織ってろ。 ちったぁ、ましだろ。 ったく、お前は相変わらずアホだぜ。」
言い終わらないうちに、彼は着ていたスーツの上着を脱ぎ、わたしに放り投げた。
スーツを受け取りながらも、躊躇していた。
「ほら、早く着ろよ。 風邪引くぞ。 …せっかくの人の好意を無駄にすんじゃねーよ。」
言い終わると、プイと顔を逸らしてしまった。
彼にしては珍しく、少し照れているようだった。
そんな彼を微笑ましく感じ、言われるままに上着を羽織ると、仄かな温もりと、煙草の匂いがした。
まるで、彼に優しく包まれているようだと思った。
と同時に、恥ずかしさと、それを上回る切なさが込み上げてきた。
「ふふ。」
「な、何笑ってんだよ。」
「獄寺さんが親切だから、何だか気持ち悪いです。」
「んだとー!! やっぱり、返せ!」
「嫌です。 …だって、凄く暖かい、から。」
「え…」
それまでの、自分の上着を取り戻そうとしていた、彼の動きがピタリと止まった。
「…ありがとう…」
「! き、急にしおらしくなるんじゃねぇよ。 な、何だか調子狂うぜ…///。 !! って、何泣いてんだよ!」
「ごめ、ん、なさい…」
止めどなく流れ出る涙は、自分ではもう、どうしようもなかった。
自分にとって、かけがえのない大好きな二人の幸せを、心から祝福出来ない自分が悔しかった。
そして、苦しかった。
今まで必死に目を逸らしてきた、自分の心の醜さを直視させられているようで。
不意に、包まれる暖かさを感じた。
一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。
彼に、抱きしめられていた。
全く想像出来ない彼の行動に、ただ、固まるしかなかった。
徐々に、冷静になっていく思考回路も、この状況の答えを見い出す事は出来なかった。
「あ、あの、獄寺さん?…」
「…無理するなよ。 泣きたいなら、泣いてていいから。」
「え?」
「…」