ナナイロ

□笑顔
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その扉から現れたのは、実年齢よりも、落ち着いた雰囲気を纏った青年だった。

記憶の中で無邪気に笑っている彼とは、印象はかなり変わっていたものの、間違いなく、どうしても会わずにはいられなかった人だった。

彼を見たとたん、それまで張り詰めていたナニかが切れた。
心の片隅に押し込めていた想いが、涙となって溢れていた。

彼は、少しだけ哀しそうに、それでも優しく、以前の面影と重なる様な微笑みを浮かべながら、そっと、抱きしめてくれた。
初めて知る彼の腕の中は、暖かく、幸せだった。


神様って、本当にいるのかもしれない。


徐々に感覚が、意識が遠のいていく。
薄れていく意識の中で、本当の理由に気が付いた。
何故、こんなにも彼に会いたかったのか―。

勿論、最後に最愛の人の姿を目に焼き付けておきたかったのもあるけれど、伝えたかったから。
たった、一言を。


暖かい水滴が、わたしの頬を濡らしていた。
ボヤけていく視界の中で、わたしの名前を呼びながら、あなたが泣いていた。


わたしの為に、泣いてくれるんですか?
ごめんなさい。
あなたを悲しませてしまって。
そんなつもりは無いのに。
でも、わたしは酷いね。
あなたを泣かせてしまっているのに、こんなにも幸せで仕方がありません。

あなたに逢えて、恋をして。
本当に良かった。


泣いているあなたが、さっきとは別人のように幼く見えて。
知り合った時のあなたのようで。
笑って欲しくて。
いう事をきいてくれない手で、あなたの頬に触れた。


「泣かないで…。 ハルは、ツナさんに逢えたから幸せです。 笑って、下さい… ツナさんの、笑顔が…大好きだから…」


―ありがとう―

わたしが最期に観たものは、この世で一番愛したものでした。


〈fin〉
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