ダイヤモンド

□夏空
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大きな声援を一瞬、掻き消すほどの澄んだ金属音が場内に響く。

小さな白球は、真っ青な空へと吸い込まれるように、飛んで行った。

歓声は一際大きくなり、球場を揺るがしていた。


彼の、彼等の夏が、終わった瞬間だった。





遠くから、蝉の鳴声が絶え間無く聞こえてくる。

焼け付くような昼間の陽射しは西へと傾き、その暑さは幾らか和らいだとはいえ、辺りを包む空気は未だ、熱を孕んだままだった。

額に汗が滲んできているのが分かる。

思いついた場所を歩き回って、ここが三箇所目だった。

ここでも見つけられないのなら、今日はもう止めようと思っていた。


そろそろ、帰る事を考えていた時、少し先の、オレンジ色に染まった土手の斜面に、寝転んでいる彼を見つけた。

それまで重く感じていた足が、自然と速くなる。

近付くにつれ、その表情が見て取れるようになってきた。

まだ、彼までそれなりの距離があるというのに、その表情が穏やかで無い事が分かる。

眉間に深く皺を寄せ、何も無い空間を穴が開くのではないのかと思うほど凝視している彼がいた。

長い付き合いではあったが、それまで見た事も無い、思い詰めたその表情に足が止まる。

此処まで来た目的を思い出し、一呼吸整えて、再び足を進めた。

ゆっくりと近付いて行き、その緊張を悟られないように、いつもの様に声を掛けた。


「・・・か、叶、こんな所でどうしたの?」

「ん? 何だ、瑠里か。 ・・・別に。 どうだっていいだろ。 俺が何処に居ようと、勝手だろ。」


ちらっと、こちらを一瞥しただけで、仰向けのそのままの姿勢でつっけんどんに彼が応えた。


「何よそれ。 そりゃ、確かにあんたが何処に居ようと勝手だけどさ。」

「なら、ほっとけよ。」


取り付く島がない、とはこういうことなんだろうと頭の片隅で思った。
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