ダイヤモンド
□一時の場所
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「えいっ! あっ、あ〜あ。」
狙っていた黒い出目金が、何事も無かったように、尾ひれを揺らしながら泳いで行ってしまった。
「お姉ちゃん、まだやるかい?」
「もう一回!」
「あいよ。 がんばるねぇ〜」
渡された新しいポイを持ち直し、もう一度、目当ての黒出目金を狙う。
緊張の一瞬。
今度こそ、と意気込んで挑んでみたものの、結果は同じだった。
「はあ〜。 また、ダメだった・・・」
流石に、5回連続失敗していたので、そろそろ止めなくてはと思っていた。
それでも、目の前を優雅に泳ぐ赤の中の黒が一際、際立って目が離せないでいた。
いつになっても、その場から離れようとしない瑠里に、一緒に来ていた友達は先に行くと言い残しその場を離れて行った。
友達の一言で、未練はあったが、その場から離れる事にした。
友達の後を追おうと、立ち上がった時だった。
額に鉢巻を巻いた、威勢のいい的屋のおじちゃんに声を掛けられた。
「お姉ちゃん、これでよければやるよ。」
「え?」
差し出されたのは、小ぶりではあったが綺麗な赤い出目金だった。
「え、いいんですか?」
「いいよ。 お姉ちゃん、頑張ってくれたしね。 お目当ての奴は、やれないけど。」
「そんな事無いです。 ありがとうございます。」
手元で揺れる真っ赤な金魚を、眺めながら歩いていた。
鮮やかな赤い色に見惚れながらも、あの黒い出目金と一緒にしたら、どんなにさまになっただろうと考えていた。