ダイヤモンド

□夕焼けの向こうまで
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今にも沈もうとしている夕日が、辺りをオレンジ色に染めていた。

川面を渡る風が、昼の熱を奪って心地良かった。



「それでね、叶− きゃっ! ちょっ、な、何してんのよ!? 放してよっ。」


いきなり、後ろから抱き竦められて、身動きが取れない。


「ったく。 いい加減、名字で呼ぶの止めろって、言っただろ。 いつまで経っても、分からない奴にはお仕置きだ。」

「お、お仕置き!? …って、何言ってんのよ!。 もう、ふざけて無いで、早く放してよっ。 こ、こんな所、誰かに見られたら…。」

「見られたら、何?」

「え? …は、恥ずかしいでしょ。」

「そうか? 俺は、別に構わないけど。」

「え〜!?」


抗議の声をあげてみたが、現状が改善される事は無く、それどころか、身体をガッシリと抱き竦めている腕に、更に力が込められてしまった。


「そんなに放して欲しい?」

「!」


それまでと違い、耳元で囁かれて思わず、身体に力が入る。


「あ、当たり前でしょ!」

「なら、ちゃんと言った通りにすればいいだろ。」


相変わらず、耳元で囁かれる何時もよりも少し低い声には、この状況を楽しんでいる響きがあった。


「うぅ〜。 わ、分かったわよ。 名前で呼べば、いいんでしょ!」

「フッ。 言ってみな。」

「っ、…し、修悟。 放してよ。」


たった、一言を口にしただけなのに。

恥ずかしさのあまり、一足早く熱をもっていた、頬以外の全身までもが火照る。

よく考えたら、誰かに見られる方が、恥ずかしく無いんじゃないか、というくらい。


「よく聞こえなかったな。 ちゃんと、聞こえるようにもう一回。」

「ええー!? な、何それ! ひどく無い!? わたし、ちゃんと言ったのに!」

「仕方無いだろ。 聞こえなかったんだからさ。 今みたいに、でかい声なら聞こえるだろうけどな。」

「なっ! …。」

「どうした? このままでいいのか。」


恥ずかしさで、十分過ぎるほどだったのに、つつかれて我慢も限界を迎えていた。

不意に、激しい怒りが込み上げて来た。


「もう、いいわよ! 好きにすればいいじゃ無い!!」


感情に任せて、口にした言葉の反応は、以外なモノだった。


「…何だよ、それ…」


それまでの、意地悪を楽しんでいるような気配が一変した。

低い声はそのままに、冷たい響きを纏っていた。


「…え?」


冷たい一言を吐き捨てるように呟いたあと、その口はつぐまれ、沈黙が訪れる。

思いがけず訪れた沈黙は、怒りを不安へと変えた。
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