ダイヤモンド

□ドキドキの素
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「お。 俺、一番乗り?」

いつもの場所に自転車が一台も無く、本来の広々とした空間が広がっていた。

その場に自転車を停めて、玄関へと向かい呼び鈴を鳴らした。
しばらく待っていたが、家の中からの反応は無かった。


「あれー? 三橋、居ないのかなー。」

携帯をポケットから取り出し、目の前の家の住人に電話をかけた。

呼び出し音が鳴り、相手が出るのを待っていた。

家の中から走ってくる足音が聞こえたと思ったら、勢いよく玄関の引戸が開いた。

「さ、栄口、君。 い、いら、しゃー、い。」


そこに現れたのは、手に着信状態のままの携帯を持った三橋だった。

通話を切り、携帯をしまう。

「よぉ。 ん? 三橋、寝てたの?」

「! な、何で、分かった、の?」

「髪、凄い事になってるよ。」

「! そ、そんな、に、酷い?」

三橋がキョドりながら頭に手をやる。

「うーん。 結構。」

お世辞にも大丈夫とは言えず、笑顔は苦笑いになった。

「そ、ソファーで、ちょっとだけ、寝てた、だけ、なのに…」

「あ、三橋。 水で濡らしてみたら。」

落ち込む三橋を見かねて、アドバイスをしてみた。
「うん! 分かった。 そうする、ね。」

先ほどまでとはうって代わり、尊敬の眼差しを向けつつ、よく首がもげないな、と思うほど三橋は頷いていた。

(ぷぷ。 相変わらず、面白い動きするなー。)

「俺、髪、直すか、ら、栄口君、部屋、行って、て。」

「分かった。 じゃ、先に上がってるよ。」




玄関脇の階段を上り、三橋の部屋のドアを開けた。

とたんに、風が一気に吹き込んできた。


「うわ。」

慌てて、ドアを閉めた。

「ふうー。 ビックリした。 凄い風だったな。 あ、でも閉めると、丁度いいかも。」


窓を見たら、案の定全開になっていた。

今はドアを閉めているので、心地良い風がレースのカーテンを揺らしていた。


(まだ、皆が来るんだし、少し窓閉めといた方がいいよね。
ドアを開ける度に、突風が吹き抜けてちゃ、部屋の中が散らかっちゃうし、ね。)


窓を閉めようと、その場から数歩歩き出した時だった。

ふと、視界に思いもよらないモノが飛び込んで来た。


「え?」

自分で見た光景が信じられず、目を擦り、もう一度確認する。
もちろん、目を擦った後も、その光景は変わらずに、信じられないままだった。


三橋のベッドには、女の子が1人、スヤスヤと眠っていた。

(は? 女、の子?!
…えーー!!! な、なな、何で、何で女、女の子が、居るのー???)

驚きのあまり、頭が真っ白になった。

しばし、ボーゼンとしていた所へ、勢いよくドアを開けて三橋が入って来た。


「さ、栄口君! ジュース…」

「ひぃぃ!!!」

「持って、来た…よ?」

「ぁ、み、三橋。」

「?」


三橋が、不思議そうな顔で眺めていた。

ベッドで眠る女の子と、背後の三橋を交互に見る。

(そういえば、三橋、寝起きって言って…、って、えぇ〜〜!!! 三橋ぃ〜?)

「あぅ〜。」

「さ、栄口君? どう、した、の?」

「ぅえ?! えっ、とー…」

(これは指摘していいの? どうなの? でも、俺に見られても普通だし、…あの、三橋がぁ?!)

考えても、余計に混乱するばかりだった。


明らかに、いつもと様子の違う栄口を不審に思い、三橋が栄口に近づいて行った。
「栄口君、何か、あった…」

話し掛けている途中で、三橋もいつもと違う事に気付いたようだった。


「!!! る、瑠里!? …な、何で、ここ、…いる、の!?」

三橋の、あまりの驚きぶりに、思わず気が抜けた。

「へ? …三橋、この娘、いるの知らなかった、の?」

問い掛けに、今にも泣き出しそうな顔をして、無言で激しく頷いていた。

自分以上に動揺している三橋の姿を見て、それとは反対に冷静さを取り戻す事が出来た。

「そう、なんだ。」

(そっかー。 
そう、だよな。 三橋、だもんな。
…あ、それに、ソファーって言ってたっけ。
はは。 言わなくて良かったー。
にしても、いきなり女の子ってのには、ビビったなー。)


未だに、こちらの混乱など知るよしも無く、気持ち良さそうに眠り続ける女の子を見て、そういえば、眠るお姫様が出てくる物語があった事をふと、考えていた。


「…ところで、この娘って、あの従姉妹の子?」

「う、うん。」

涙目で三橋が答えた。
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