ナナイロ

□見上げる幸せ
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「う〜ん。 やっぱ、見当たらないな。」

背の高い彼が、人で溢れかえる構内を見回す。

「そうですか…。 済みません。 わたしが、靴紐直してた、から。」

「何、気にすんなって。 ツナ達には、携帯に連絡入れとけば大丈夫だろ。 もう、帰るだけだしな。」

携帯を、ポケットから取り出し、軽くウインクしてみせた。

「あっ、…はい。」



携帯を仕舞いながら、彼が言った。

「今、メール送っといたから、そんな心配そうな顔すんなって。 な、ハル。」

無邪気な笑顔を向けられて、思わずつられて微笑んでしまう。

「はい。」

わたしの笑顔を確認して、彼は笑顔のまま、大きく頷いた。

「…にしても、これだけ人が居ると、さすがに蒸し暑いなー。」

いつの間にか、額に浮かんだ汗を手で拭いながら、忙しそうに歩く人々を見渡していた。

改札口の、すぐ近くに居る事もあって、辺りは、改札を出入りする人達で一杯だった。

「そうですね。 場所のせいも有るんでしょうけど。 少し、空いているとこにでも、移動しますか?」

「そうだなー。」

電光の案内を見ると、目的の電車までには、ただ、じっと待つには少し時間があった。

「…なー、ハルさ。 あっちぃし、時間もまだ有るからさ、店でも入んね。」

誘う、というよりは、せがむ様にして照れ笑いと、汗を浮かべた彼が言った。





「くぅ〜。 生き返るー。」

会い向かいの席に座った彼は、出された水を一気に飲み干して、満足そうに目を細めていた。

「ふふ。 山本さん、おじさんみたいです。」

「うん? そっかー? ははっ、つい出ちまったな。 …しっかし、やっぱ、店の中は快適だよなー。」

「そうですね、やっと、落ち着けた感じですよね。 …あっ、山本さん、何にします?」

「そーだなぁ〜。 冷たい牛乳無いかな?」

「え? …牛乳、ですか?」

「はは。 やっぱ、変、かな。」

「あは。 …一応、聞いてみましょうか、ね。」



テーブルの上に置かれた、二つのアイスティーも飲み終わり、グラスの中には半分融けかかった氷がライトの光を反射していた。


(うっ、どうしよう。 話すこと無くなっちゃった。 何だか気恥ずかしくて、ちゃんと顔見れないよ。)

こんなふうに、彼と二人きりで居る事は今まで無かったし、まして真正面から彼の顔を見るなんて、慣れない事過ぎて正直、どうしていいのか分からなかった。

どこか落ち着かない、そわそわした気分で、それでも不思議とこの時間に終わって欲しいとは思わなかった。

でも、その時間の終わりをもたらしたのは、わたしと違い、普段と変わらない彼だった。
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