ナナイロ
□ハルイチバン ‐ハルのアラシ‐
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〔雪融ケ〕
‐ただ、“綺麗”の一言だった…‐
赤いヴァージンロードを静々と歩く、純白の花嫁。
その歩みの先には、白いタキシードを身に纏った、少し緊張した花婿。
そこにある何もかもが、純白な二人を祝福しているようだった。
晴れやかな笑顔の二人。
その笑顔が、眩し過ぎて、少しだけ視線を逸らす。
この期に及んでも、チクリと痛むこの胸に悲しくなる。
‐こんな事じゃいけない。 大好きな二人の門出を笑顔で送ると決めたのは、誰でもない自分なのだから。‐
華やかな場の熱気と、シャンパンのアルコールも手伝って、部屋の中は暑すぎるように感じた。
熱気と、人混みから逃れるようにベランダへ出ると、肌寒いくらいの気温だったが、火照った身体には心地良かった。
こうして、ガラスの扉で隔離された場所に居ると、それまで居た目の前の煌びやかな世界が夢のような気さえしてきた。
ガラスの向こうから視線を逸らして、ふと、空を見上げると、そこには今にも降ってきそうなほどの星空が広がっていた。
‐なんて綺麗なんだろう。 何の濁りも無い空。 …わたしと違って…。‐
どれくらい空を見上げていたのだろうか。
背後から、不意に声を掛けられた。
「おい、こんな所で何してんだ?」
「えっ!?」
驚いて、慌てて振り向くと、そこには、不機嫌そうな表情をした男が立っていた。
「…ちょっと、シャンパンに酔っちゃったみたいで…。 涼んでいたんです。」
「ふん。 …そのくらいで酔ってんじゃねーよ。 にしたってよ、幾らなんでも涼むにしちゃ寒すぎやしねーか? お前、寒くねーのかよ?」
軽く肩をすぼめ、憎まれ口を叩きながら、それでも、自然と隣に来て、慣れた仕草で煙草を取り出して火をつける。
慣れない場に居たからか、見慣れた彼の仕草に、ホッとする自分を感じながら、中学生の頃、良く彼と言い争いをしていた事を思い出した。
ふと、懐かしい気分でいっぱいになった。
「大丈夫ですよ。 そんなに寒く無いで…クシュン!」
さすがに、火照っていた身体も、保温性など皆無の薄い生地のドレスという格好に加え、肌寒いくらいの外気にしばらくさらされて、気が付けば、身体の芯まで冷え始めていた。