ナナイロ

□決意
1ページ/1ページ


あの日から、野球の他にもう一つ、夢中になってしまうことが増えた。

何をしていても、ふと、意識の隙間をつくように、彼女の‐ハルの‐笑顔が頭を過る。
その瞬間、心臓が大きく跳ね上がる。
そして、しばらくの間、心臓が自己主張しているような、うるさい鼓動に悩まされる。

本当に、身体に悪い。
というより、もう病気なのかもしれないな。
恋の病、という。
だとしたら、完治しない難病だ。
俺には、治療法を知る術は無い。

野球の事なら、殆んど自分で対応出来るけど、野球と違って、何をどうすれば良いのか、まるで解き方の解らない、どんなに考えても答えの出ない、数学の問題のようだった。

いや、まだ数学の問題なら、公式がわかれば解けるだろう。
でも、この事に関しては、その公式自体が解らない。
本当に早く、世界の頭の良い奴らに、発見して貰いたい所だ。
ほら、また。
こんなバカな事を考えてる間にも、彼女の笑顔が浮かぶ。


あの日以来、俺の心に入り込んでしまった、あの底抜けに明るい笑顔を思い浮かべただけで、幸福感に包まれる。
そして、その後に沸き上がる、底無しの切なさと、深い溜息。

彼女の恋と、俺の恋。
交わる事の無い、想いは叶うことなど、あるのだろうか…。



心に深くかかった靄を、少しでも払えるように深呼吸する。

そうだ、答えが見付からない事などもう、充分過ぎるほど知っている。

ならどうすればいい?。

求めなければ、いい。
求めるから、結果を欲してしまう。
自分の中に在るものだけ信じればいい。

それは、ただ一つ。


誰よりも、何よりも大切で、大事にしたい。
大好きなあの笑顔で、彼女がいてくれる様に、いられる様に、守りたい。


だから、俺が、全身全霊を懸けて守って行こう。

ずっと、これからは。



新たな決意を胸に、心を占める少女に語りかける。

―なぁ、ハル。 2人で虹を見たあの日のように、これからも笑っててくれよな。―



〈Fin〉

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ